トミーロッド

□言えない言葉を文字にしてみたら
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「次やったらその両腕切り落とすから」

「……つまり、私に死ねと?」


私はグルメ細胞なんて持ち合わせていない普通の人間だ。
両腕切り落とされるなんて死ねといわれているようにしか聞こえない。


それは天気の良いお昼のこと。
部屋に入るとお昼寝タイム(さぼっている)トミーを発見。
どうやら部屋に入ってきた私に気づかないくらい熟睡中らしい。


「これは…日頃の仕返しをするチャンス……!」


私はニヤリと笑い黒いマジックを取り出した。
近づいて寝顔を覗きこむ。

……うわ、綺麗な顔。
今更だけどそう思った。
派手なピンクのサラサラな髪の毛。
閉じられている目の長いまつ毛。
口紅をぬっている赤い赤い唇。

見とれているとトミーの目が開いた。


「お前なにしてんの」

「………」


右手にマジックを持ってトミーの顔を覗き込んでいる私。
言い逃れをしようにもできない状態。
そして、今に至るのである。


「ボクの顔に落書きだなんていい度胸だね、名前」

「……はい、」

「どうせならお前の顔に書かせてよ」


そう言うなり、ガバッと私の上に乗っかるトミー。


「やだやだ!マジでやめてっ」

「ハハッ!名前の顔面白い」


身動きが取れず好き放題されて10分後。


「トミー、寝たふりしてたでしょ!」

「してたよ」

「起きてるなら起きてるって言ってよねっ」

「起きてる」

「……もういい!」


このまま話していても無駄だと思った私は額に書かれている"肉"の文字を消していた。
額に肉って…、なんてありきたりなんだ。
あんなことをしようとした自分にため息が出る。


「……あれ?」


やっと"肉"の文字を消し終わったとき、ある文字が目に入った。


「トミー、これってどういう…」

「知らネ」



それは"ボクのモノ"と書かれた文字。




言えない言葉を
文字にしてみたら




「……なにしてるの、早く消しなよ」

「今日はこのままで過ごすっ」

「…変な奴」


fin 2012/05/17

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