木ノ風

□挑戦
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『なに固まってるんですか?
ほらほら、早くしないと僕、屋根の上にでも逃げ込んじゃいますよ?』


静まり返った俺達を見渡し、嘲笑うように飛鳥は首を傾げる。


さすがの総司も、呆気にとられていた。






飛鳥という男の急変っぷりに。





先程までは落ち着いてはいたものの、どこか怯えたような様子を見せていた男は、今、子供のように笑いながら明らかに苛立っている。




…なんとなく、あれが素なのだろうと感じた。




原「まぁ…落ち着けって飛鳥。
そんな自棄になるなよ」


『僕は冷静ですよ?原田組長。
貴方みたくカッとなって切腹する事なんかありませんから心配なく。』


原「……!」




原田の切腹も知ってるってか……

未来にどれだけ俺達の情報が伝わってるかは知らねぇが…厄介な奴を捕まえちまった事には変わりない。




『……で?
どうするんです?』



楽しげに問いかける視線は局長の近藤さんではなく、俺に向けられている。


こういった判断は俺がしている事もお見通しのようだ。



土「……得体の知れないてめえを幹部にするなんざ無理に決まってんだろ。」



苦渋の表情で返した俺の言葉に、飛鳥は満足げに笑いながら うんうん、と頷く。










……何も言い返さない様子から、どうやら俺の次の言葉を待ってるらしい。


可愛い顔して、なかなか小賢しい野郎だ。







土「俺等としては……この場で斬り捨てる方が楽なんだがな。」


『僕は嫌だから逃げさせてもらいますがね。』




別に僕の命は貴方達が握ってる訳じゃないんですよ?


そう言って俺のすぐ前まで歩んで来る。




刀は持ってないにしろ、武器がないとは限らない。


両腕を縛られた状態の飛鳥に刀を抜いて牽制した。






『これは取引です。


今日中に僕を斬り捨てられなかったら僕を新選組に置いて下さい。

いっそ幹部じゃなくても良いですよ?


ただ、もし約束を破るようなら―――…





……羅刹の事は、あちこちに言いふらしちゃいます。』





全「……!」




藤「てめ…っ!
そりゃただの脅迫じゃねーか!」


『そうですよ?
でも昨日、羅刹を逃したのは貴方達の責任でしょう?

それくらい僕が言う権利はあります。』






再び殺気立つ俺達に冷たい視線が降ってくる。


飛鳥の言い分に間違いは見出だせない。






だが、ここまでくると逆に疑問が残った。




永「……脅迫たぁ随分と見た目に似合わず卑劣な真似をするじゃねぇか。
俺達を怒らせて何が目的だ?」


『見た目は関係ないです。』


斎「……確かに昨夜の事柄は俺達に落ち度がある。
…が、そこまで言うとなると……
見た目に似合わず、剣術に自信があるのか?」


『見た目は関係ないです。』


山「飛鳥君の言う未来にはどれ程羅刹の情報があるのかは知りませんが…
見た目に似合わず、君は羅刹について詳しいのですか?」


『だから見た目は関係ないです。』


近「我々に挑戦を申し込むとは…飛鳥君は見た目に似合わず度胸があるのだな!」


『だーかーらー、見た目は関係ないですってば。』


原「……確かに見た目に似合わず勝ち気だよなぁ。
気に入ったぜ」


『おいこら。あれか。わざとか。(怒)』







後半は疑問じゃなかった。



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