駄文

□お医者様でも草津の湯でも
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本当にどうしようもない時。
本当に本当にどうしようもない時、人の心は澄む。
それは覚悟を決めたということではない。
自分で処理できる範疇を超えていくその軌跡の、バックを飾る空があんまりきれいだから。


と、いうことを、今日ツナは知った。
「だから駄目って言ったのに」
昼下がりのグラウンド。
がくりと乾いた土に膝をつき、今更どうにもならないことをツナは無意識のうちに呟いた。
ああ、隣でランボが泣いている。
うん、痛かったよね。躓いたのがほらあそこで、そのまま顔面スライディングでここまで滑って。
痛かったよねわかるよでもね。


俺だって泣きたい。


遠い校舎。
轟いた爆音になんだなんだといくつもの窓から野次馬が身を乗り出し、しかし状況がわかると辺りは水を打ったように静かになった。
普通あまりメジャーではないが、この中学校に限っては保身の意味で全校生徒が認知している、かの獣の巣。

応接室の割れた窓から、もうもうと硝煙が噴きあがっていた。

**********

飽きもせず、もはや日課されど失敗はゆるされないミッションとして、ランボはリボーンを襲った。
もちろんリボーンには相手にされず、かわりにその余波でおやつのミルフィーユを台無しにされたイーピンの餃子拳をくらって星になったランボは、流れ流れて5限前の並盛中に不時着したのである。
「うーわーツーナー!!」
「わっ汚ねっ!ランボちょっと制服で鼻拭かないで」
あるかないかの記憶力でなんとかツナのクラスに飛び込んできたランボに、沸点の低い右腕はとりあえずキレた。
「10代目に世話かけてんじゃねーよ!!」
「駄目!!獄寺くんここ3階だから!!落ちたらたぶんランボでももう駄目かと」
もじゃもじゃ部分をわっしと掴み、窓から本気でランボを宙吊った獄寺に取りすがってツナが止める。
「あ、はいわかりました」
自分が触れた部分からなんかピンク色に染まってすんなりランボをひっこめる獄寺に、ツナは将来的な不安を覚える。
こんな温度差激しくていいのかな右腕。
いやいやマフィアになんかならないよ。ならないって。
ならないけどさぁ。
「獄寺ぁ顔ぐずぐずだぜーほらツナもキモいってー」
目をきらっきらさせてツナを見つめる獄寺の背に、山本が笑顔で見えないナイフを突き立てる。
「え、いやそんなこと思ってないよ!?」
「果ぁぁぁてろぉぉぉぉこの野球馬鹿!!」
大きく振りかぶって投げましたぁぁ獄寺くん!!
思わず脳内実況をしつつツナは、ボールのかわりに投げつけられ山本が笑顔で流したのがランボであることに気付き、よせばいいのに慌てて後を追った。
ツナがグラウンドに出たとき、自分の足にひっからまったランボは、砂煙をあげて結構な距離を顔面で滑っていた。
うわ、あれは痛い。
一拍遅れて駆け寄ったツナは、ぼろ雑巾になったランボにさすがに同情した。
俺も相当駄目だけど、こいつもなぁ。
ああでも5歳児だったっけー何歳差だよ。
「ラ、ランボー、大丈夫…」
「うわぁぁぁあん!!!!」
火がついたように泣き出したランボが、もじゃもじゃからバズーカを引っ張り出す。
いつもの流れなので、ああまたかと思ったツナだが、そのため違和感に気付いた。
バズーカの形が、違う。
なんかちょっと、大きい。
そういえば昨日ジャンニーニが。
「ちょ、ランボなんかそれ駄目」
「うわぁぁぁぁぁあ!!!!」
途端でかい火花が尾を引いてツナの横を飛んでいった。
振り返ったツナは、意外な展開にぽかんと口を開けてただつっ立っていた。

わーぉ。

長くなったが、これが話の発端である。

**********

阿呆のよう口を開け放してグラウンドに座り込んでいたツナは、本鈴が鳴ってのろのろと立ち上がった。
外に出たとき予鈴が鳴ってたから、5分経ったってことだ。
バズーカの効果はそろそろきれたはずだ。例外もあるが、基本のタイマーだと信じよう。
てか、信じたい。
「行くよランボ」
帰っては、来られないかもしれないけど。
ようやく落ち着いてきたランボの鼻と涙を拭いてやり、抱き上げてツナは自分が上履きのままだったことに気付く。
これでまた、叱られる。
「2人だから、1人あたり8割殺しくらいで済むかもしれないし」
甘い。
あの鬼の委員長がそんなぬるい仕事をするものか。
生きるか死ぬかだ。
そして自分たちはたぶん死ぬ。
大概俺も自分に優しい頭してるよなーはははと笑うツナの目は焦点が合っていない。
自分たちのクラスだけ断続的な爆音で今だ喧しいのを確認し、援軍も望めないことにはさすがに目頭を押さえた。
おーい右腕。
ああ、秋晴れが目に染みる。

**********
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