『灰色の運命』

□第1話 異邦人
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数日後


CB(ソレスタルビーイング)秘密基地


生き残ったプトレマイオスのメンバーはナドレとデスティニーを回収し、この秘密基地に逃げ込んだ。
デスティニーはイアン達によって解析中である。
そして、そのパイロットのシンは∞ジャスティスの攻撃で負傷した為、現在治療中である。

ティエリア「……………」

ティエリアは医療カプセルに入っているシンを見ていた。

フェルト「ティエリア、此処にいたんだね。」
ティエリア「もう大丈夫か?」
フェルト「うん…もう大丈夫。悲しんでばかりじゃいられないから。」
ティエリア「そうか。」
フェルト「スメラギさんは?」
ティエリア「………」

ティエリアは何も言わずに首を横に振った。

フェルト「そう…」
ティエリア「で、何だ? あのMSの事か?」

ティエリアはシンを見ながらそう言った。

フェルト「ええ、イアンから機体データを貰ったけど…これ…」
ティエリア「ん? どうした?」
フェルト「いや…見てくれれば判るから…。」
ティエリア「?」

ティエリアはフェルトから携帯端末を受け取り、コピーしたデスティニーのデータを見た。

ティエリア「……………………ッ!? これは本当か?!」
フェルト「…………」

フェルトは黙ったまま頷いた。

ティエリア「しかし…これは…『核動力』とはな…。」
フェルト「やっぱり別世界のMS…。」
ティエリア「そうとしか考えられないな。核は全て『封印』されているからな。」
フェルト「ええ。でもどうして突然…?」
ティエリア「それは彼に聞くしかないな。」

ティエリアとフェルトはシンを見た。

シン「…ん…」

と、ここでシンは目を覚ました。

シン「…ここは…?」
ティエリア「目覚めたようだな。」
シン「アンタは?」
ティエリア「僕はティエリア・アーデだ。」
フェルト「私はフェルト・グレイスです。」
シン「…シン・アスカです。」
ティエリア「では、単刀直入に言おう。君は『異世界の人間』か?」
シン「えっ…!?」
ティエリア「あのMS…デスティニーの動力源である核は、『我々の世界』では完全に封印されてあるからな。」
シン「我々の世界…!? どういう意味なんだ!?」
ティエリア「これを見ろ。」

ティエリアは携帯端末を操作し、『この世界』に関する情報をシンに見せた。

シン「軌道エレベーター…、太陽光発電…、3つの超大国…。」

シンはここでステラの言葉を思い出した。

シン「ああ、そうか…。」
ティエリア「?」
シン「分かった。俺がいた世界の事を話すよ。」

シンは自分がいた世界の事を話した。
遺伝子操作によって能力を高めた人間、コーディネーターの事。
コーディネーターと普通の人間であるナチュラルとの確執。
それによって起きた連合軍とザフトによる二度の戦争の事。
シン自身もコーディネーターである事。
家族を一度目の戦争で亡くした事。
力を欲し、ザフトに入り、二度目の戦争に参加した事を話した。

フェルト「コーディネーター…。」
ティエリア「DNA操作の技術はこの世界にもある。だが、それを人間に使ったという例は無い。」
シン「まあ、違う世界ですからね…。」

但しソーマ・ピーリス(マリー・パーファシー)とトリニティはデザインベイビーとして生まれた為、実際には『例』は存在する。

ティエリア「ん? 確か君は軍に入ったと言ったが、もしかして、撃墜されたか何かでこの世界に来た、ということにならないか?」
シン「相討ち…ですね…。」
ティエリア「相討ちか。だが、何らかの『奇跡』が起きない限り、君は死んでいたとなるが?」
シン「…俺は、『導かれた』んです。」
フェルト「導かれた…?」
ティエリア「誰にだ?」
シン「ステラって子です。」
ティエリア「面識は?」
シン「有ります。」
ティエリア「どんな子だ?」

シンは顔を俯いたが、直ぐに顔を上げた。

シン「…エクステンデッドです。」
ティエリア「エクステンデッド?」
シン「連合軍がコーディネーターに対抗するために精神操作や薬物等を使って強化した人間…。」

シンは両手を握り締めながらそう言った。

フェルト「酷い…。」
ティエリア「成る程、どの世界も愚かな事をやる様だ。」
シン「愚かな事…?! まさかそっちの世界にも!?」

シンは思わず立ち上がりながら叫んだ。

ティエリア「そうだ。だが、既にその施設は解体されて存在しない。」
シン「そうか…。」

シンは医療カプセルに座った。
因みにシンが着ているのは医療カプセルに入る時の服である。

ティエリア「だが、君とステラはどう出会った? 敵同士の筈だが?」
シン「最初に出会った時は休暇の時だったから、敵とは思っていなかった…。」
ティエリア「成る程、次に出会った時は敵同士だったか。」
シン「はい。」
ティエリア「では、最終的には自らの手で撃ったと?」
シン「違います。説得しようとしました。ですが…『アイツ』さえいなければ…!」

シンは険しい顔で言った。

ティエリア「アイツ?」
シン「フリーダムというMSです。」
フェルト「フリーダム…」

フェルトは携帯端末を操作し、デスティニーのデータバンクを調べた。

フェルト「有りました。このMSですね。」

フェルトは携帯端末をシンに見せた。

シン「そうだ、コイツさえいなければ…ステラを救えた筈…いや、救えた! 確実に!」
ティエリア「だが、例え救えたとしても、上はステラをどう扱うかが問題だ。何せ様々な人体実験によって造られた存在だ。ステラの身体はそれでボロボロになっている可能性がある。連合軍兵士として処理されるか、或いは強化された人間のサンプルとなるか、だな。」
シン「……………」

シンは黙り混んだ。

ティエリア「まあいい、次は僕達の番だな。」
フェルト「ティエリア。」
ティエリア「大丈夫だ。例え失敗しても問題ない。こう言うのも何だが、どうせ彼はこの世界の人間ではない。だから射殺されても文句は言えない。」
フェルト「ティエリア…。」
ティエリア「さて、今度は我々だな。」
シン「……………」
ティエリア「我々はCBという組織だ。」
シン「ソレスタル…ビーイング。」
ティエリア「我々CBが何をしているのか、これを見れば判る。」

ティエリアは携帯端末を操作し、ある映像をシンに見せた。

『地球で生まれ育った全ての人類に報告させて頂きます。私達はCB、機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です。私達CBの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶させる事にあります。私達は自らの利益の為に行動はしません。戦争根絶という大きな目的の為に、私達は立ち上がったのです。只今をもって全ての人類に向けて宣言します。領土、宗教、エネルギー。どのような理由があろうと私達は全ての戦争行為に対して武力による介入を開始します。戦争を幇助する国、組織、企業なども、我々の武力介入の対象となります。 私達はCB、この世から戦争を根絶させる為に創設された武装組織です。』
シン「これは…!?」
ティエリア「そのままの意味だ。この人物はイオリア・シュヘンベルグ。CBの創設者だ。」
シン「…武力による…戦争根絶…!? これが、アンタ達の目的か!?」
ティエリア「この演説が全てだ。」
シン「これじゃ、軍に対するテロ宣言じゃないか…!!」
ティエリア「そうだ。我々はテロリストだ。」
シン「それが分かっているのに何でコイツに従う!?」
ティエリア「…イオリアは今から200年も前の人間だ。」
シン「え?」
ティエリア「それに、今の我々は『イオリアの意志』ではなく、『自らの意志』で戦争根絶を行う事を決めたのだ。」
シン「自らの意志で…。なら、人を殺した罰は受けるのか?」
ティエリア「ああ、受けるさ。全ての戦争を根絶させてな。」
シン「…!? ちょっと待て! それじゃ、死ぬまでどころか永遠に戦わなきゃならないか!?」
ティエリア「その通りだ。CBは『存在する事に意味がある』のだから、全ての戦争を根絶するまで、我々CBの戦いは終わりなど無い。」
シン「………………」
ティエリア「さて、君は我々CBの事を知りすぎた。」

ティエリアは拳銃を取り出し

ティエリア「シン・アスカ、君の答えを聞こう。」

銃口をシンに向けた。

シン「…………………」
ティエリア「…………………」

シンは少し俯いて沈黙し、ティエリアも銃をシンに向けたまま沈黙した。
それから、何分もの時間が流れた時、シンはゆっくりと立ち上がり、顔を上げ、ティエリアを見た。

ティエリア「!」

シンのその眼差しは、決意の眼差しであり、その眼差しにティエリアは一瞬怯んだ。

シン「俺は…俺も戦う。この世界の全ての戦争に!」
ティエリア「…そうか。」

ティエリアは拳銃を下ろし、しまった。

ティエリア「分かった。だが、君の機体では修復しても『GNドライヴ搭載機』と戦えるのかどうか怪しい。」
シン「GNドライヴ?」
ティエリア「太陽炉とも言う。元々は我々CBが持っている動力源だ。CBが世界と戦えたのは、そのGNドライヴのお陰だ。」
シン「それは凄い…!」
ティエリア「だが、『裏切り者』がGNドライヴの情報を流し、最終的には我々は壊滅的なダメージを受けた。」
シン「そんな凄い物なのか?」
ティエリア「ああ、我々が持っているGNドライヴはオリジナルで『半永久機関』だ。裏切り者が流した情報で造られたGNドライヴ[Τ]は擬似太陽炉とも呼び、有限で、バッテリーみたいな物だ。因みに我々が持っているオリジナルのGNドライヴは『五基』しか存在しない。」
シン「…貴重なんだな。…って、ちょっと待て。GNドライヴは全部使われているのかよ!?」
ティエリア「残念だが、その通りだ。」
シン「そんな…!?」
ティエリア「今度造られる予定の新型のトレミーには武装が搭載する予定だから、シンは砲撃士で我慢する───」

ピピッ! ピピッ!

フェルト「イアン、どうしたの?」
イアン『ああ、実は『太陽炉のブラックボックスを経由して』こんなデータが送られてきたんだが、見てくれんか?』
ティエリア「どういうのだ?」

ティエリアはそのデータを見た。

ティエリア「………これは…!?」
シン「?」

シンは気になったのでティエリア達の間から覗いた。
そのデータは、『2311.XX.XX.ニコノ座標『XXXXXXXX』ニ来イ、ソコニ求メシ物有リ』という内容だった。

ティエリア「イアン、このデータは太陽炉のブラックボックスからだったな?」
イアン『ああ、そうだが?』
ティエリア「まさか…このデータ…『ヴェーダ』からか…?」
皆「!?」
シン「ヴェーダ?」

その場の全員がティエリアのヴェーダという言葉に反応したが、シンは知らない為、当然の様に疑問符を立てた。

ティエリア「…ヴェーダはGNドライヴと共にイオリアが基礎理論を確立した量子型演算処理システムで、我々CBの計画の根底をなしていた。」
シン「へ…へぇ…。」

シンはイオリア・シュヘンベルグに改めて感心した。

シン「…ん? 『なしていた』…? どういう事なんだ?」
ティエリア「…ヴェーダは『裏切り者』によって掌握された。」
シン「えっ?! じゃあこのデータは!?」
ティエリア「だが、イオリアはヴェーダが掌握、或いは破壊された時の為に幾つものトラップシステムを仕込んでいた様だ。恐らくはこのデータはそのトラップシステムを使ってオリジナルのGNドライヴに送られた。これが正解に近い仮説だろう。」

このティエリアの仮説はほぼ正解である。
事実、このデータはヴェーダを『完全に』掌握したリボンズ・アルマークには一切知られていないのだ。
これはヴェーダがリボンズに『掌握させた様に見せ掛けていた』のだが、リボンズがこれを知るのはかなり先の話になる。

イアン『って、事は、ヴェーダは何か重要な『何か』をワシら『オリジナルのGNドライヴの所有者』に送る為にこのデータを送ったという事か。』
ティエリア「そういう事だな。」
シン「…えっと…、ちょっと後ろ見せて貰えますか?」

シンはイアンの後ろにある物が気になっていた。
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