『対話の前の日々』

□変革者と変革出来なかった者
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中国の奥地


ミユ「龍兄…」
龍義「チッ、結構遅くなったな…。何処か適当な所で停めるしか…ん?」

龍義は木々の間に光るものを見付けた。

龍義「光…? あっちか。」

龍義は車をその光の方に向けて走った。

ミユ「あ…!」
龍義「………家…?」

光はその家の窓のカーテンの隙間から出ていた。

ミユ「こんな所に家があるんだ…」
龍義「(家の中には……二人か…)ちょっと行ってくる。」

龍義はその家の前で車を止め、一人降りてその家に向かい、ドアをロックした。

「はい。」

中から龍義と同じ長髪を首元で纏めた男がドアを開けた。

龍義「すみません、少し道に迷いまして、日が明けるまでで良いので泊まらせて頂けませんか?」
「………はい、何名ですか?」
龍義「自分を入れて2名です。」
「分かりました。どうぞ。」
龍義「有難うございます。」

龍義は車に向かった。

龍義「ミユ、OKだ。行くぞ。」
ミユ「うん、分かった。」

ミユは車から降り、龍義と共に家に向かい、中に入った。

二人「お邪魔します。」
「何もありませんが、どうぞ。」
龍義「いえ、日が明けるまで休憩を取るだけですから。」
ミユ「あ、有難うございます。」
「いえ、どうぞごゆっくり。」

二人は家の中の4つある部屋のひとつ、暖炉やテレビのある部屋に入り、質素なソファーに座った。

「飲み物はいかがです?」
龍義「コーヒーで。」
ミユ「私もコーヒーで。」
「はい、分かりました。」

男はそう言ってキッチンに向かった。

ミユ「ちょっとニュースでも見させて貰おっと。」

ミユはテーブルの上に置いてあるリモコンでテレビの電源を入れ、ニュースを見始めた。

ガチャ…

ミユ「…?」

別の部屋の扉が開き、1人の長髪の女性が出てきた。

ミユ「あっ…!」
龍義「(ん…?)」

女性は精神的に参っているのかその表情はひどく窶れており、髪は少しボロボロだった。

「あら…お客様…かしら?」
ミユ「は…はい…あうっ?!」
龍義「すまないが、一晩だけ泊めさせてもらう。」

女性に対し少しテンパったミユに龍義は肘で少し打った。

「そうですか…」

そう言って女性も反対側のソファーに座った。

「………………」

暫しテレビの音以外何も聞こえない静寂が続いた。

龍義「…貴女は『何を変えたかった』?」
「えっ…?」
ミユ「龍兄…?」
龍義「貴女はその『何か』を変えたかった。だが、その『何か』を変えられなかった。それが今のこの現状ではないのか?」
「…!」
「………」

女性とコーヒーを持ってきた男は驚きの表情で龍義を見た。

龍義「何かを変えたければ先ずは『自分自身を変える事』だな。そうでなければ『何か』を変えても自分が取り残されるだけだ。」
「…………」
龍義「今はそういう時代だと、ふつふつ感じる。」
「……有難うございます。」
「あっ…」

女性は穏やかな笑みを浮かべた。


─────────




ミユ「泊めさせてもらって有難うございます。」
「良いですよ。こんな所に人なんて来ませんし。」
龍義「それだけではないのだろう?『王留美』。」
ミユ「えっ?」
「あっ…!」
龍義「何処かで見た事が有ると思ったが、こういう事だったか。」

龍義は携帯を見せた。
携帯のモニターには『王留美、突然の財産放棄と行方不明』と書かれた記事を表示していた。
但し、その財産の大半はリジェネ・レジェッタが回収しているという事実はヴェーダ内のティエリア・アーデ以外は誰も知るよしもなかった。

龍義「…別にチクろうとかそんな事はしない。そんな下らない事の為に旅に出てる訳じゃないからな。行くぞ。」
ミユ「えっ?…あ、うん。」

龍義とミユは車に乗り込んだ。

龍義「改めてだが、泊めてもらった事には感謝している。後、『兄妹』仲良くな。」
留美「あ…!」

龍義は微笑みながらそう言うと車を走らせた。

「…留美…」

玄関から出てきた男───紅龍は留美の肩を抱いた。
2人は車が見えなくなっても暫くの間車の走った方を見詰めていた。
 

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