『未来を斬り拓く対話と運命の翼』

□第5話 Extraterrestrial Living-metal Shapeshifterと目覚める者
1ページ/14ページ



連邦軍宇宙局技術研究所

コンピューター室


ビリー「そろそろか…」

ビリーは腕時計を見て、そう言った。

ミーナ「もう1人のイノベイター、んん〜♪ 楽しみだわ♪」
ビリー「……どうしてそうなるんだ……」

プシュー

ビリー「来た……ッ!?」

ビリーは入って来た人物を見て、驚愕した。

ビリー「キ…キム中将…!」

研究所に連邦軍の高級幕僚の1人であるキムが1人の人物を連れて入って来たのだ。

キム「連邦議会から急遽お越しになられた……」
「大統領特使のクラウス・グラードです。」

キムはビリーと敬礼をし、クラウスを紹介した。

クラウス「それで、状況は?」

クラウスは世界中で起きている不可解な事件を起こしているエウロパの破片の調査結果を尋ねた。

ビリー「…ご覧になるのは構いませんが…多少の覚悟が必要です。……それに、少しお時間を頂ければ……」

そう言ってビリーは腕時計を見た。

キム「誰か来るのか?」
ビリー「はい。」

プシュー

ドアが開き、ビリー達はドアの方を向いた。

龍義「…!」
セルゲイ「キム中将…!?」
ミユ「えっ…?!」

龍義、ミユ、セルゲイの3人だった。

キム「スミルノフ大佐…? それに……」
龍義「飛鳥龍義少佐です。」
キム「ああ、そうだったな。すまない。」
龍義「構いません。」
ミーナ「これで役者は揃ったみたいね。」

ミーナの言葉に一同の視線がミーナに注がれた。

ビリー「…ご覧になるのは構いませんが、多少の覚悟が必要です。」

ビリーは再びそう言うとミーナに合図を送り、ミーナの操作によってモニターに映像が表示された。

ミユ「ッ!!?」
クラウス「こ…これは……?!」
セルゲイ「な…何…?!」
キム「どういう事だ…?」
龍義「ッ…!」

険しい表情を浮かべた龍義以外は全員驚愕の表情を浮かべ、ミユに至っては恐怖で口元を押さえていた。

ビリー「(無理もないか…。最初僕もあんな表情をしていたと思う……)」

モニターには、『左半身が金属化している少女』が映っていた。

ミーナ「事実だけを述べると…被検体…いえ、この少女の『肉体組織のほぼ半分が金属へと変化しています』。」
キム「…金属…」
ビリー「『地球外変異性金属体(Extraterrestrial Living-metal Shapeshifter)』…。我々はこの『異星体』を『ELS(エルス)』と名付けました。現在、此処にいるELSは活動を停止しており、生体構造を把握する事は出来ません。」

するとミーナが補足する様にELSのスペルを空中で書いた。

ミーナ「ですが、ELSは『脳量子波を発する人間に引き寄せられている形跡があります』。」
キム&クラウス「!?」
ミーナ「つまり───」

ミーナの言葉を遮り、龍義が口を開いた。

龍義「『イノベイターになりうる因子を持った存在が狙われている』。そう、『俺の様な存在が』……」
キム&クラウス「…!」

龍義の言葉にミーナは頷き、龍義の方を向いたキムとクラウスは驚いた。
龍義の瞳が金色に輝いていたのだ。

ビリー「グラード議員、彼らを脳量子波遮断施設に避難させるよう、連邦議会に提案をお願いします。」
クラウス「分かった。直ぐ手配させよう。」

ビリーの方を向いたクラウスはそう言った。
イノベイターと言えども能力が異なるだけで同じ人間の危機にいてもたってもいられなかった。

キム「やはり、落下した木星探査船の破片が原因か…」
ミーナ「そう考えるのが妥当ですね。」

ビリーはクラウスに訴えた。

ビリー「事は重大です。我々人類は、未知なる存在と接触しました。なのに、その存在の特性すら把握していない。もし、他の物体と融合し、繁殖速度が急激であるなら……」

ビリーは其処で言葉を切った。
その先は言わずもがなであるからだ。
一同の表情は緊迫感と共に理解もしていた。
ただ1人、モニターを見つめる龍義を除いては。

龍義「……ビリー・カタギリ。『あの少女とのコンタクトは取れるか』?」
皆「えっ…?」

龍義の突然の発言に一同は唖然とした表情をしたが、ビリーとミーナはすぐに正気に戻った。

ビリー「駄目だ。あの部屋は封鎖されている。」
ミーナ「それに、脳量子波でのコンタクトが彼女にどんな影響があるのか分からないわ。」
龍義「それでも、確かめなければならない。彼女が何故半身を金属化されただけで済んだのか。彼女は今どんな思いをしているのか。」

龍義の目と口調は真剣そのものだった。

ビリー「…………」
龍義「…………」
ビリー「……分かった。だけど護衛は付かせて貰うよ。」
ミーナ「ビリー!」
ビリー「彼なら大丈夫だよ。…少なくとも、グラハムの数倍はね。」
龍義「それは失礼じゃないのか?」
ビリー「危なっかしい人だって事は君だって分かってるんじゃないのかい?

龍義「…まあ、そうだが、其処で引き合いに出すのはどうなんだろうとは思うがな。」

こうして、龍義は護衛付きで少女とのコンタクトを取る事が出来た。

ビリー「龍義、良いかい?」
龍義「ああ、問題ない。」

龍義は護衛2人と共に少女を隔離している部屋のドアの前に立っていた。

キム「イノベイター…か。」
セルゲイ「さて、彼女やELSがどう反応するのか、だな。」
ミーナ「ええ、『もう1人のイノベイター』は外宇宙航行艦にいますし、こんな事は出来ませんでしたけどね…」
セルゲイ「だからこその不測の事態が起こる事を恐れている、という事だな。」

ミーナは頷いた。

ビリー「開けるよ。」

部屋のロックが解除され、龍義は部屋の中に足を踏み入れた。

龍義「…………」

龍義の目の前には左半身が金属化された少女が寝かされていた。

龍義「…フゥー……」

龍義は深く深呼吸をし、そして瞳を輝かし、脳量子波を発した。

「………………」

だが、少女とELSは何の反応を見せなかった。

龍義「なら…」

龍義は脳量子波を全開にした。

「………………………………」

それでも何の反応を見せる事はなかった。

龍義「…………分かった。思いは聞けれなかったが、半身が金属化されただけで済んだのかは分かった。」
ビリー「どういう事なんだい?」
龍義「恐らくだが、ELSに取り込まれた際、『無意識の内に脳量子波を遮断した事により、ELSの侵食が止まった』と思う。彼女がイノベイター予備軍なら、常人よりかは高い脳量子波を発すると思うが、その脳量子波が感知出来なかったという事は、そういう事なんだと思う。」
ビリー「そうなのか…」

ピピッ!

キム「通信?」
ビリー「ミーナ。」
ミーナ「分かってる。」

ミーナは通信を開いた。

ミーナ「何々? これは………えっ?」
ビリー「どうした?」
ミーナ「『アジアタワー付近の病院にて、大量の金属破片を発見した』…?」
皆「!!」

一同は『金属破片』という言葉に表情を険しくした。

ビリー「今すぐ調査が必要みたいだね。」
セルゲイ「エベレストを使う。宇宙での試験航行を前倒しにすれば問題ない。」
ビリー「有り難うございます。」
ミーナ「私達も行きましょうか。」
クラウス「この問題は水面下で行われるでしょう。ならばヴェーダとの連携を視野に入れれば、外宇宙航行艦に召集される事は間違いないでしょう。」
ビリー「調査した後直ぐに航行艦行きか。」
ミーナ「忙しくなるわね。」
ビリー「ミユちゃんも、大変な事になるかも知れないけど、頑張れるかい?」
ミユ「はい。」
ビリー「グラード議員、後は任せました。」
クラウス「イノベイターは世界に生まれた新人類と言われていますが、元は 同じ人間。彼らの安全の為に全力を尽くします。」
キム「私も、『もしもの時』に備えて各地の製造工場の整備を始めさせる。」
セルゲイ「今は軍縮の時代、ヘタに軍備増強は出来ないから、その下準備という訳ですね?」
キム「そうだ。」

其処に龍義が戻って来た。

龍義「どうせ俺もイノベイターとして振り回されるのは確定事項だろうな。」

龍義の諦めにも似た言葉にキム達は苦笑いをするしかなかった。
こうして、連邦はELSに対し、水面下ではあるが対応を始めていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ