『未来を斬り拓く対話と運命の翼』
□第2話 イノベイターとガデラーザとエウロパと……
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ラグランジュ2
1隻の巡洋艦がCB号に向かっていた。
その巡洋艦はバイカル級航宙巡洋艦を改修したヴォルガ級航宙巡洋艦であり、ブリッジの指揮官席に座っているのはカティ・マネキン准将である。
彼女は現在、CB号の視察の為に向かっているのだが、つい数日前、地球に向かう木星探査船の撤去命令を受け、一部艦隊を探査船撤去の為に送り出していた。
「…これがそうですか、CBが作った外宇宙航行艦というのは。」
カティの隣の席にいる艦長はそう呟いた。
実際にこれを使用していたのはリボンズらイノベイド達だが、同じCBなので何ら訂正は無かった。
カティ「(外宇宙への進出…CBの創設者イオリア・シュヘンベルグは、3世紀近く前から、その様な計画を考えていたのか……)」
カティは2年振りに目にするCB号を見ながら、壮大とも言える計画に思いを馳せた。
ピピッ!
カティの思考は通常音によって現実
へと引き戻された。
「哨戒艦隊から地球圏に接近してくる探査船の調査報告が届きました。船籍番号9374、船名『エウロパ』。130年程前に木星探査に向かった船の様です。」
カティ「(そんな昔の船が何故今地球に?)」
カティはそう思いながら送られてきた情報を見た。
カティ「(やはり衝突コースか。)」
その情報の中には地球の公転軌道と探査船の軌道がある一点で重なっていた。
其処が地球と探査船の衝突するポイントであり、地球が其処に差し掛かった時、探査船も其処に到達する為、衝突は免れず、更に探査船は1kmにも及ぶ巨体を誇り、もし衝突すれば落下地点とその周囲は甚大な被害を受ける事になり、海に落下すれば巨大な津波が発生する事は誰の目からも明らかである。
「内部の様子は?」
「システムが稼働している形跡は有りません。生体反応も有りません。しかし、このままですと、地球圏に到達する事は間違いありません。」
カティ「(大方小惑星か何かに衝突して此処まで来たのだろう。)哨戒艦隊に通達、プランD34で粒子ミサイル攻撃、探査船の軌道を変えよ。」
「了解。」
カティの命令はオペレーターによって哨戒艦隊に通達した。
確かに130年前の船が遥か遠くにある木星から遥々生まれ故郷である地球に向かっている事は紛れもない事実である。
だが、その巨大な船体が地球に落下すれば甚大な被害を被るのもまた事実。
ならば探査船には悪いが、此処でその軌道を変えさせて貰うしかないのだ。
カティ「後は頼む。」
カティは後の事を任せ、本来の目的であるCB号に向かう為、席を立ち、ドアに向かった。
プシュー
カティ「ん?」
不意にドアが開き、其処から一人の赤毛のパイロットが入ってきた。
「大佐ぁ〜。」
そのパイロット───パトリック・コーラサワーは前方の席に掴まると愛妻であるカティの姿を見付け、子供の様な笑みを浮かべた。
カティ「准将だ。何年間違えば気が済む。」
コーラサワー「す、すみません…」
途端にシュンとなるコーラサワーを見たカティは周囲から微かな笑い声が聞こえた気がしたが、『色んな意味で』慣れた事であり、一々気にする様な事でもないのだ。
カティ「丁度良い、私の護衛付け。貴官も少しは勉強した方が良い。」
それもあるのだが、置いておくと『大佐〜!』とか叫びながらあちこち探し回るのだから、堪ったものではない。
これがアロウズを叩き、一時は大尉まで上り詰めた者の態度ではなく、更に、結婚した事による『幸せボケ』によって初めて会った時(この時は遅刻したコーラサワーに鉄拳制裁をかましたが、まさかこれがコーラサワーを惚れさせる要因となった事は当のカティ自身も思わなかった)よりも階級が下がり、准尉まで下がってしまったが、MSパイロットとしての腕は未だに高く、指揮官用の灰色のジンクスWダブルシールド仕様を愛機としている。
コーラサワー「わっ…わっかりましたぁ!」
コーラサワーはカティの命令に先程までの落ち込みなど消え失せ、満面の笑みで敬礼した。
カティ「(全く…コロコロと表情が変わる奴だ。実家で飼っていたゴールデンレトリバーに似ているな。)」
カティは父が亡くなった時、悲しむ母を思って泣かない様にしていた自分から片時も離れなかった愛犬を思い出した。
カティ「(だからこそ、アイツが死んだと聞かされた時は流石に悲しんだよ。………それにしても、似ていると言ったら、パトリックは怒るだろうか? いや、パトリックなら『ゴールデンに? ええ、俺は黄金ですから!』とか言いかねんな。戦術予報士として……『妻』として。)」