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05/27(Mon) 03:26
李土夢


過去は捨てた。

貴男に会ったあの日が“私”の始まり。
それ以外のものなんて“私”には必要ない。

何百年と経ったあの日の事を、今でも鮮明に思い出せる。


始まりは雪の中。

白で染まる視界。

冷たいはずの雪は暖かに感じられた。
すぐ傍まできていた“死”
無為に続く“生”に厭(あ)きて、終わりを望んでいた。
このままで入れば“それ”は直ぐにも訪れるはずだった。


遠ざけたのは紅と蒼の瞳をした黒い死神――“私”の王様。

雪に半ば以上埋まっていた“私”をひっぱりあげて、薄く笑った。

「なんだ、お前“吸血鬼”か…」

その言葉のどこが面白いのか…、死神は喉奥で笑い声をあげる。

「まだ小さいな…」

呟く様に言ったあと、死神は私を引きずって歩きだした。

「食べ頃になるまでは待ってやる」

そう言って“私”の生死に頓着する様子もなく、どこかへと向かう。
…おそらくは、その途中で死んでも構わないと思ったのだろう。
物を扱うように、粗雑に、どうでもいいものの様に、乱暴に、運ばれる。
やがて辿り着いたところは暖かい屋敷。
死神を出迎えた男が“私”の存在に気付き質問する。

「非常食だ、食べ頃になるまで適当な仕事でも与えておけ」

死神はそう言って“私”を男に渡すとどこかへ行ってしまった。
残された男は“私”を見て溜め息をつく。
「全く、李土様のきまぐれにも困ったものだ…」
「り…ど…?」
「あの方の名だ、私の主人であり、今からお前の主人ともなる方」
覚えておけと教えられた名前。
“私”の主人。
“私”の王様。

――玖蘭李土

口の中で数度、その名を繰り返していれば男が話し掛けてくる。
「お前、名は?」
「………ない」
首を振って男に答える。
「“餌”に呼び名は不要」
自分はいずれ王様に食われるのだ。
今はまだ食われるのにも値しないから食べてもらえないけれど…。
いつか食べ頃になった時、食われる為に“今”生かされている。
だから名は必要ないと言えば、男は面白そうに片眉をあげた。
「…ほぉ、良く分かっているな」
男はそう言うと猫の子を掴むように私を掴みあげ、視線を合わせる。

「そう、私もお前も、この屋敷にいる者は全て李土様の餌だ」

これほど誇らしい事はないと、男は言葉にせず語る。

「しかし、食べられるその時まで“仕事”はしなければならない。
生きる為には色々と必要で、それを得る為の仕事だ」

主人に食べられる為には食べ頃になるまで生きていなければならず、生きる為には仕事が必要。

それはすんなりと納得できる理由だった。

自分は王様が“私”を食べたいと思うまで生きなければならない。

「そして仕事を言い付ける為には“名”が必要だ。
他の者とお前を区別する為の“名”が」
“名前”がないのなら、今この場で適当につけろと、でなければ“仕事”は与えないと、脅される。
それは困ると、嫌だと思った。
だから頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。

「“たくる”」

「よろしい“たくる”
では最初の“仕事”だ」

そう言った男は温かな食事をくれた。
その後には風呂に入れてくれて暖かな寝床もくれた。
どうしてそんな事をしてくれるのか不思議で訊ねれば
「不健康なやつより健康なやつの方が旨いだろう」
と、実に分かりやすい答えをくれた。
「“仕事”が出来る体力も欲しいしな」
そう付け加えられ、素直に寝床にもぐる。

食事を与えられたのはひさしぶりで、暖かく柔らかな寝床は覚えている限り初めてだ。

「そうそう、私は“カデム”と言う。
お前…たくるに“仕事”を命じる者の名だ」
覚えておけと命じられ、頷く。

その時がくるまで、生きる為の“仕事”を与えてくれる人。

翌日から“カデム”は“私”に“仕事”と、その見返りとして食事と寝床を与えてくれた…。





“餌”として李土に拾われた“たくる”
いつか食われる為に生きあがく。
見た目は6歳くらい。

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06/01(Sat) 03:12
李土夢2


夢ができた。

“王様に食べられること”

それが“私”の夢。


「“たくる”」

仕事をもらう為に自分で自分につけた名前。
その名を呼びカデムは私に仕事を言い付ける。
多くは今までにもしてきた雑用。
言われた通りにこなせば、「よろしい」と言い食事をくれる。
初めてすることもあったけど、カデムは丁寧にやり方を教えてくれて…失敗しても「次は上手くやりなさい」と言って、やっぱり食事をくれた。

それが不思議でしょうがなくて。
なぜ失敗しても優しくしてくれるのかと問うた。

「別に優しくしているつもりはない」
「優しいよ!だってこうして食事をくれるし…」
共に熱いスープとパンという簡単な…けれど美味しい食事をとりながらする会話。
カデムはいつも通り淡々と私がした問いに答えてくれる。
「“食事”は“仕事”をする者に与えられる正当な労働報酬です。
たくるはキチンと仕事をしているでしょう?」
「だけど失敗した…」
この食事をする前に頼まれたのは李土様宛てに届いた手紙(夜会の招待状)を選り分ける作業だった。
一緒にもらった名簿と照らし合わせ、そのまま李土様に渡すもの、カデムさんがチェックしてから渡すもの、そしてそのまま捨ててしまうものの3つに分ける。
時間は少しかかるけど単純で簡単な作業のはずだった。
字が読めさえすれば。
字を読むことが出来なかった私は、手紙の文字と名簿の文字を1つ1つ照らし合わせて選り分けていくという方法をとった。
その作業方法は効率が悪く、食事の時間だとカデムが呼びにきた時までに終わらせる事が出来なかった。

「仕方ないでしょう、たくるが字が読めないと知らなかった私のミスです」

カデムはなんでもない事の様にいうけど、私はそれが恥ずかしい事に感じた。
前までいた場所は、時が読めなくても書けなくても困る事はなかった。
それが出来ない事に気付くような場所でもなかった。
“字”というものを必要としない場所だった。

「次からは出来ない事はその場でいいなさい、他の仕事を与えましょう」
“仕事”を取り上げられない事は嬉しかった。
それはここを追い出されないという事だから。
まだ王様の餌である事を許されているという事だから。
だけど悔しかった。
せっかく与えられた“仕事”なのに上手く出来なかった。

「カデムはどうしてぶたないの?」

役立たずは生きる価値がないと、笑いながら打ってきた。
こうする事でお前に価値が生まれるのだと、感謝をしろと女と男が笑う。

忘れたはずの笑い声。
耳に響く幻聴に、ぶるりと体が震えた。
「なんのために?
たくるは叩いてものを教えなければ覚えない獣ではないでしょう?」
言葉で伝わるのですから充分です。
そう言って、やはりなんでもない事のようにカデムは続ける。
「出来ない事は出来る様になればいいんです。
“仕事”が全て終わった後、私で良ければ文字を教えましょう」
にこりとも笑わずに言われた言葉。
決して優しい口調ではなかった。
でも私にはひどく優しいものに感じられて…込み上げた涙で言葉はでず頷く事で答えた。

カデムは優しい。
仕事を与えてくれる。
その仕事を奪わないでくれる。
出来る事を増やしてくれる。
…こうして毎日かかさず食事を取れる事がどれだけ幸福な事か私は知っている。
前にいたところは“命令”に従わなければ食事がもらえなかった。
“命令”をきいても食事をもらえない時の方が多かった。
“命令”を失敗すれば殴られて。
失敗しなくても殴られた。

私はあそこじゃ、人でない、人の形をした便利な道具だった。

“名前”はあった。
でも呼ばれた事なんてなかった。
いつも「おい」とか「それ」とか呼ばれていて、自分は“物”なんだと思えた。

それに耐えられなくて逃げ出した。
あの生活がずっと続くくらいなら死んでも良かった。
雪の中、終れる事にホッとした。

でも今“私”は生きていて。
それはいつか王様に食べられるため。

おかしいね。
私は“餌”なのに。
食べられる為に生きている家畜なのに。

ここにきて“私”は初めて人になれたんだ。

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06/06(Thu) 03:10
李土夢3


※流血注意






終わりは突然。

その日は“たくる”の始まりと同じ様に雪が降っていた。
私はカデムのおかげで出来る事も増え、充実した毎日を過ごしていた。
ようやく牙も生え、まだ体は小さいけれど1人前と呼んでも差し支えはない。
これで李土様に食べてもらえるかと期待に満ちた問いをカデムにするが。
返ってきた言葉はまだ小さいというもの。
“食べ頃”になるまでまだ10年はかかると鼻で笑われた。
ぶすくれる私の頭をカデムは撫で、次の仕事を言いつける。

「は〜い」

わざと怒られる様な返事をして、注意を受ける前に仕事――エントランスの掃除に向かう。
「李土様が帰られる前に終わらせなさい」
「…いつ帰ってくるの?」
溜め息まじりに落とされた注意に時刻を確認する。
陽が落ちて既に数時間。
李土様が出掛けたのはちょうどその頃。
1度外に出れば何日か帰らない事は良くあって、てっきり今日もそうなのだと思ってた。
でもカデムの口振りからすると今日中に戻ってくるのかも知れない。
「…今日向かわれたところに長居はしません」
朝までには戻られます。と、どこか歯切れ悪く言われたそれに首をかしげるが深くは問わない。
理由など、私が知る必要はない。
私はただ、いつか李土様に食べてもらえる時まで生きてさえいればいい。
その為に必要な“仕事”
それをこなす為に必要な知識。
それ以外はいらない。

“好奇心は猫を殺す”

…余計な事を知り、李土様に食べられる事なく死ぬのは嫌だった。
落し穴はいたるところに開いており、はまればそこで何もかもが終わりになる。
だから与えられる情報(もの)以外に興味を持ってはいけない。
垣間見る事があっても気付かぬフリで通り過ぎる。
それが、ここで生き延びる処世術。

エントランスの掃除を始めて1時間。
やたらと広いそこを1人で時間内に終わらせる事はまず無理。
だから私の他にも2人、エントランスの掃除をしていた。
1人は長い脚立を使いシャンデリアを磨き、1人は床をモップで磨き、私は窓を磨いていた。

まるで鏡の様に私の姿を移す窓は、近づけば夜の気配に包まれた森を映す。
離れた位置にいる2人と言葉を交わす事もなく、ただ黙々と手を動かす。

異変が起きたのは更に1時間ほど後。
最後の窓にとりかかった時だった。

「李土様…!」
「お帰りなさいませ」

少し離れた位置で聞こえた声に振り返れば李土様がいて。
ああ、間に合わなかった。と失敗したと、胸をひやっとしたものが撫でていく。
く主人より高い位置で出迎えるなど出来ないと、せめてもの体裁を守る為に慌てて脚立から降りる。

「…り……」

声は途中で消えて、広がる血の香り。
それに気をとられ、最後の1段を踏み外し転んでしまう。
スローモーションで流れる景色の中で、見慣れた同僚が灰になっていく様子と、李土様が真っ赤に染まった手を舐めるのがわかった。
最初に思ったのがいいな。と感想だった。
次が李土様に食べてもらえて羨ましい…という妬み。
でも違かった。

同僚は食べられたのではなくただ殺されたのだと…頭を潰され灰になったもう1人の同僚を見て理解する。
それを見て、逃げなければと思った。

“たくる”の望みは“食べられる”事であって“殺される”事ではない。

だから逃げなければ。

そう思うのに、体は動いてくれなくて…。

紅と蒼のオッドアイが私を見たとき。

抵抗するように涙が溢れた。
頭が死を覚悟した時、何か黒いものが私を庇った。

けれどそれを越えて届いたものに腹を貫かれる。

「…けほっ」

最初に襲ってきたのは熱で、ジワリと背中に広がっていく液体。
自分に覆い被さる重み。

薄布を隔てた様に全ての感覚が遠くて、痛みも小さく、まるで他人事の様に感じられた。

それでも。

自分はこのまま死ぬのだろうと理解できた。

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06/07(Fri) 02:42
李土夢4


※流血注意







死を意識しながら思うこと。

――嘘吐き

と、まず恨み言が零れた。

食べてくれると言ったのに。
その為に今日まで生きてきたのに…。

――だけでなく、“たくる”の生もこんな風に終わってしまうのかと悔しくて涙が溢れる。

私が望む事は何一つ叶わないのだと…絶望の中に突き落とされた気分だった。
いっそ一瞬で灰になれれば良かった。
じわりじわりと近付いてくる死は遠くに感じ、余計な事を考える時間がある事が煩わしい。

「…たく…る…」

か細く苦しげな声は知っている人の声だった。

「かで…む…?」

こちらも似たような音で声の主を呼ぶ。
その時になってようやく気付く。
自分にのしかかる重みの主が。
自分を庇ったものが。

カデムだと。

「いき…て…ます…ね…」

吸血鬼の死はわかりやすい。
死ねばたちまち灰になり、後には何も残らない。
だからカデムも私が生きている事を疑わず話を続ける。
「わた…し…の…ちを…のみ…な、さ…」

それは、いつも私に仕事を言い付ける時の響きに似ていた。
静かであるのに、逆らう事のできない口調。

だからいつもの様にそれに従う。

生えたばかりの牙はまだ使った事がなかった。
けれど、どう使えばいいのかはわかる。
…おそらく、それは本能とでも言うのだろう。
口元にさらされた首。
邪魔な衣服を残された力で引き契り、牙を穿つ。

…じゅ…じゅる…

鼓膜に響く血を啜る音。
一口飲むごとに遠くにあった感覚が戻ってくる。
徐々に痛みが増していくのを感じながら。

これは生きている痛みだと思えた。

血と共に入ってくるカデムの記憶と想い。

私と同じ様に李土様に食べられる事を望んでいた。
その為に生きていた。
けれど同時に諦めてもいたと、初めて知る。

カデムは優秀だった。
いなくなれば不便だと、そう思われるくらいなら。
ただの“餌”なら他にもいて、他の使い道がある“餌”をわざわざ食べる必要はなかった。

だけど李土様は気まぐれで。
いつか不便さよりも食欲を優先する時がくるかもしれないと…カデムは“その時”がくるのをずっと待っていた。

…それなのに、カデムは李土様に食べられる事なく死ぬ。
李土様ではなく、私に食べられて死ぬ。

それはどれほど無念な事だろう?
なのに、カデムの血はそんな味はしなかった。
ただ私に生き延びてほしいと訴えてくる血を。

カデムが灰になるまで飲み続けた――。


体にかかっていた重みが消える。
代わりに灰が全身にかかった。
灰まみれになりながら、生きたいと望んだ。
生き延びて、いつか李土様に食べてもらうのだ。

――カデムを食らったこの身を。

けれどその願いは叶わないだろう。

カデムを食らっても、腹に空いた傷が塞がる事はなかった。
かろうじて血は止まったようだがそれだけだ。
このまま捨て置かれれば、死は間違いなく訪れる。

襲う痛みが生きてる証だというのなら、この痛みに耐えてみせよう。

遠退きそうになる痛みに縋りつき、意識を保つ。

少しでも長く、生きてみせる。

血と灰に満ちた空間で、私は今までで1番“生きていること”を実感していた。

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06/10(Mon) 01:28
李土夢5


救いとう名の絶望が訪れる。

どれだけの時間が経ったのか、過去に李土様に救われた時と同じ様に。

やはり救いは唐突に現れた。

「…兄上?」

問い掛ける様な声と共に、誰かが屋敷へと入ってくる。
声からそれが男性のものだとわかるが、得られる情報などその程度だった。
コツリと響く靴音は段々と近付いてきて、広がる血と灰に小さな声でひどいと洩らした。
その小さな声が聞こえるという事は、だいぶ近くまできているという事。
今、助けを求めれば気付いてくれるかもしれない。

「………」

そう思い声を出そうとするが、もうそんな余力は残っていなかった。
唇を震わせ、僅かに空気を動かしただけ。
もう少し早く来てくれれば声をだせたかもしれないのに。
そう、恨み言を心の中で呟く。

「…きみ……」

その恨み言が聞こえたかの様なタイミングで驚きの混じった声が上がる。
ついで空気が動き、駆け寄ってくる気配。

「大丈夫!…じゃ、ないよね……」

その気配の主が私の顔を覗き込んだのがわかったが、どんな顔をしているのかわからなかった。
どうやらもう目も見えなくなっていたらしい。
…それとも私は目を閉じているのだろうか?
それすらもう分からない。

「ひどい…こんな小さな子まで…」

その声こそがひどく哀しげなものだった。
「…ごめんね」
そして何故か謝られる。
それが何に対してのものか、疑問が浮かぶのとほぼ同時に口の中に入ってきたもの。

「…まだ牙をたてる力は残ってる?」

問い掛けは命令だった。
抗う事など許されぬ、絶対の命令。
カデムからされるものとは全く質の違うそれ。

「…そう、いい子だね」

命じられた通りに、口の中のものに牙を触れさせる。
柔らかな声とは反対に、私を屈伏させる威圧感は増していく。

「咬んで」

短い命令に、意味を理解する前に実行する。

…ぷつり、と肉に牙を穿てば口の中に広がる甘い香り。
じわりじわりと滲む血を、舌で舐めとる。

「…ぁ……」

その瞬間、心臓が音を立てた。
止まっていた血が再び流れだす感覚。
どくりどくりと、脈打つ鼓動は全身を侵食していく。
「…あ、あぁ……」

熱くて熱くて…体が燃えているかの様に熱くて。
声が、涙が勝手に零れる。
腹に開いた傷が徐々に塞がっていく感覚が、気持ち悪くて仕方ない。

「ぁぁあああっ!」

悲鳴を上げる口にはまだ異物が居座っていて、喉奥に熱くて甘くて…痛い液体を落とし続ける。
それがなくなれば、また噛む様にと強要される。
何度も何度も繰返したそれが終わったのは、腹の傷が塞がったあと。
ようやく口から引き抜かれた何か…。

「がんばったね…」

優しい声と共に額に触れるものは冷たくて、熱くなった体には心地よい。

「……り…ど……さ…?」

閉じていたらしい目をこじ開けてみても、霞む視界では顔の判別はつかなくて。
でも、李土様に似ていると思った。
声や雰囲気から李土様でない事はわかっていた。
けれど他に呼ぶ名を私は知らなかった。

「…僕は玖蘭悠。
君をこんなめに合わせた人の弟だよ……」

哀しげな声で名乗られたあと、もう1度ごめんねと続けられた。

それに、先ほどの疑問は解けて。
なぜこの人が謝るのかと次の疑問がわいた。


私たちは“餌”だった。

李土様の為に存在するものだった。
この屋敷は李土様専用の生け簀のようなもので。
李土様に食べられるのを待つ場だった。

出来れば食べて欲しかった。
あの方の一部になって生きたかった。

それが望みだった。

けど、あの方が望んでした事ならば。

「あなたが…あやま、る…ひつ…よ…な、い…」

私たちは受け入れるだけ。
私たちの生殺与奪の権利は李土様にあって。
他の誰も――私たち自身ですら持っていない。

「……ありがとう」

――泣きそうな声でそう言った、この人だって持っていない。

李土様は私たちを好きな時に殺していい。
その権利を、私たち自身が李土様に献上した。
受け取る必要すらないそれを李土様は受け取ってくれた。

――許せなかった。

李土様は“罪”を犯したわけではなく“権利”を行使しただけなのに。
謝る事でこの人は李土様に“罪”を背負わせた。
謝る事でこの人は李土様を自分よりも下に見ているのだと教える。

この人は……。

李土様がした事を罪に貶めて、自分の罪の様に謝る事で。

李土様を侮辱したんだ!

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