君が笑うその世界を愛してる3

□第75夜
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えんちゃんも起きたことだし、みんなに紹介をする為にリビングに移動する事になった。

自分で歩けると言うえんちゃんの主張を、心配だからという言葉で却下してすうちゃんに抱きあげてもらう。
お姫様だっこだけは嫌だとごねられ、腕に座らせる様な形をとり首に腕を回して上体を安定させるえんちゃん。
…元がヌイグルミだから2人とも見かけよりはずっと軽い。
体格の関係から無理だろうけど、たぶん私でもすうちゃんを持ち上げられるくらい。吸血鬼だから人間の女の子よりは力あるし。
だからすうちゃんより小さく、軽いであろうえんちゃんなら抱けるはず!と主張したら全力で拒否られた。哀しい…。

「すう兄にだっこされるのだって嫌なのに…。
母様にだなんて絶対やだっ!!」
「玻璃様、それはさすがにえんが可哀想なのでやめてあげてください…」

すうちゃんにまで呆れた様に言われ、しぶしぶと伸ばした手を下す。…スキンシップしたいのに!

「…えん?李土様の前では玻璃様を“母様”と呼ばないように」
「なんで?」

歩きながらすうちゃんがした注意に、コテンッと首を傾げて問い返すえんちゃん。…かわいいなぁ。
頭を撫でたくなったけど背伸びしても手が届かないので諦めるしかない。…ヒール履いておけば良かったと後悔する。

「李土様がショックを受けない様にですよ」

じ〜っと2人が会話をするのを見ながら何センチのヒールなら足りるかと計算する。
私とすうちゃんの身長差が約20センチで、背伸びすればギリギリ頭に手が届くくらいでしょ?
今のえんちゃんはそれに+10センチくらい?
なら8センチくらいで足りるかな…。
一応の答えがでた頃にえんちゃんが再び問いかける。

「ふ〜ん…、それですう兄も呼んでないの?母様って」

いや、すうちゃんは元からだ。
1番最初、人の形をとった直後にはそう呼んでいた。
なかなか母様って呼んでくれないし、態度も崩してくれないんだよね。
…すうちゃんが私を大切に想ってくれているのはわかるし、学園とかだと困るけど。
すうちゃんの正体を知っている理事長と零さんにもそこまでは話していないしね。…でもやっぱりちょっと淋しい。
こっちから強(し)いった時か、すうちゃん自身が不安になった時くらいしか呼んでくれないからなぁ…。
「すうちゃんも呼んでいいんだよ?母様って」
外だと困るけど、家の中なら周知の事実だし。
「呼びなれてしまうととっさの時に出てしまいますから」
そう思って促してみてもサラリと躱されてしまう。

…絶対、今言った理由が本音じゃない。
少しはその理由もあるだろうけど…別の理由がメインのはずだ。
隠し事されるなんて…反抗期?
などとずれた事を考えていれば、暫く無言だったえんちゃんが明るく声を上げた。
「じゃあ玻璃姉様!」
「え?」
「…玻璃…姉様?」
突然聞き慣れない敬称で名を呼ばれ驚いて足が止まってしまう。
それはすうちゃんも同じで、立ち止まりえんちゃんへと顔を向ける。
「うん、すう兄と、玻璃姉様!…だめ?」
にこにこと名を呼んだあと、一転して哀しそうな表情になって強請られる。

…たぶん演技だ、コレ。なんとなくわかる。

つばめくんに似ていると思ったのに…えんちゃんも私似なんだね…。

髪と瞳が真っ黒で、すうちゃんよりも幼い外見のえんちゃんは…よりつばめくんに似ている。
どうやら無意識のうちに重ね合せていた様で…思ったよりもショックです。

「私はいいよ、それで」
「まぁ“母様”よりはショックは少ないでしょうしね」

私とすうちゃんが肯定の返事を返せばやったーと喜ぶ。その姿だけを見れば無邪気な子供そのもの…。
まぁね、元々は子供の姿になる予定ではなかったし当然といえば当然。
けど可愛い外見をしているからギャップは大きい。…なるほど、私は傍から見るとこんな感じなのかと術式が掛かっている状態の自分に客観的な感想を持つ。
うん、ちょっと反省します。

自己嫌悪に陥っていればえんちゃんと瞳が合い、にっこりと微笑まれた。

その笑みは演技などではなく…可愛いとしか表現の出来ないものだった。


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