君が笑うその世界を愛してる3

□第77夜
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私が閑様に宣戦布告をした後も、茶会は続行される。
新しく淹れられた紅茶を、えんちゃんを膝に乗せたまま飲んでいれば母様がそういえば…と思い出したように話を切り出した。

「“玖蘭”から“南風野”に手紙が届いていたのよね」
「…悠、から…ではなく“玖蘭”から、か?」
「ええ」

父様の問いに母様は頷く。
それに珍しい…と思う。

普段の手紙や夜会の招待状等は個人名で届く。
招待状の類ならその家の当主から…という様に。

家名から家名へと届けられる手紙は…なんらかの公的文書。例えば君主から家臣への命令書。とか。
昔、玖蘭が王政を敷いていた頃ならともかく今では珍しくなったもの。
いったいどんな内容なのかと思いつつ自分には関係のないものだと思っていた。
次の母様の言葉を聞くまでは。

「枢くんと玻璃を婚約させたいのですって」
「なっ!」
「ほぉ…」
「…っ!」
「………」

――ごふっ……。

母様の発言に父様は驚いて立ち上がり、閑様は面白そうに声を上げ、壱縷さんは驚いた気配をだし…すうちゃんは私の後ろでブリザードを放つ。
そして私は危うく飲んでいた紅茶を吹き出すところだった。
…あぶなっ!
もう少しでえんちゃんに紅茶がかかるところだったよ!

「そんなの直ぐに断れっ!」

怒鳴る父様に母様はにっこりと笑ってみせる。
「一応、本人の意思を確認しておかないといけないでしょ?」
「なっ…、けほ…ちょ…ごほ…」
咽てしまった為、なかなか言葉がでてこない。
隣では閑様がにやにやと笑っているし、壱縷さんは嫌悪感も露わに私を見てくる。
壱縷さんが枢に対していい感情を持っているはずがないからね、そんな視線を向けてくるのもある意味で当然。
でも私、閑様…というよりむしろ壱縷さんの恩人なのに!そんな目で見てくるなんてひどい!!
父様は父様で涙目で私のところまできて断るよな?と聞いてくるし、後ろのすうちゃんが笑顔のまま掛けてくる威圧感が怖くてしかたありません!!

なにこの状況!?

母様もなんでこの場でいうのか…。
後でこっそり聞いてくれれば良かったのに!
というより何で急に婚約話なんてでてきたの?
まぁ、心当たりなんて1人しかいないんですけどね?
ちゃんと断ったじゃん!!

「…こ…けほ、…こと…わ…」

まだ咽つつも意志を伝えれば父様は「玻璃〜っ!」と泣きながら抱きついてきて、すうちゃんはようやく威圧感を消してくれる。
父様!今は苦しいのでちょっと離れてください!
「…なんだ、断ってしまうのか?」
つまらん、って閑様!他人事だと思って!!
「当たり前だ!誰が枢なんかに玻璃をやるか!」
父様が私を抱きしめたまま閑様に怒鳴れば、それに同意する様にすうちゃんが頷いた。
「まぁ、難はあるが…同時に将来有望だろうに?」
「じゃあ閑様が婚約されたらいかがです?」
「断る」
無責任な意見に嫌味を返せば即答で断られた。
まぁね、殺されかけた相手と…なんてそれこそありえない。
「じゃあ誰ならいいんだ?
純血種が相手なら…後は橙茉の当主くらいだろう?」
「あんな餓鬼に玻璃はやらん!」
私の代わりに父様が答えてくれる。…私も嫌だ。
閑様の言葉にパッと浮かんだ顔を即座に否定する。
「というより玻璃は誰にもやらん!
僕と瑠璃とずっと一緒に暮らすんだ!!」
ぎゅ〜っと、強い力で私を抱きしめつつ涙目で訴える父様に、閑様は呆れた溜め息を吐いた。
「瑠璃、お前こんなやつのどこがいいんだ?」
「あら、こういうところが可愛いんじゃない?」
理解できないと言った口調で問いかける閑様に母様はサラリと惚気て見せた。
「…お似合いだな」
それに付き合ってられないとばかりに投げやりな感想を閑様は漏らした。


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