君が笑うその世界を愛してる3

□第110夜
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手に取った本をパラパラと捲り流し読みをする。
ハンター協会との取り決めが主に書かれている様で、事務的な文章の中にも協会へ対しての敵愾心が隠れていない。
…へぇ、この頃には既に“大規模な夜会を開く時はハンター協会へ通知しハンターの監視を受け入れたうえで開催する事”という規則が決まっていたんだ。
さすがに小規模の茶会とかまではハンター協会への報告義務はないみたいだけど。その“大規模な夜会”がどの程度からみなされるのか…とか色々と揉めたらしい。
元老院が成立した時には吸血鬼とハンターの対立も均衡を保てるくらいには落ち着いていた様だ。
最も対立が激しかった時期が“玖蘭”が王となる前。
純血種同士が争い、その余波が吸血鬼たちだけでなく人間にも及んでいた時代。
この頃のハンター達はレベルEだけでなく元人間の吸血鬼も普通に生活する一般の吸血鬼も、それを管理する貴族の吸血鬼も、そしてその頂点に立つ純血種も関係なく“粛清”の対象だった。
純血種は同族だけでなくハンター達に対抗するために同族――元人間の吸血鬼達を増やし…と正に泥沼状態。
それを解決したのが最初の王であり枢や優姫ちゃんのご先祖様というわけだ。
交戦的な一部の純血種を粛清し――この時に途絶えた純血種の家系もある――平穏を望む一部の純血種と手を組み残りの純血種を纏め上げた。
…実はそこに“南風野”つまりは私のご先祖様も関わったそうなのだけど詳しくは知らない。
知っている事といえばかなり早い段階で“玖蘭”と同盟を結んだ事くらいかな?
つまりはそれくらい南風野と玖蘭の関係は深いという事にもなるのだが、その割には婚姻関係を結んだ事が1度もないというのは珍しいと思う。父様の場合は正式に婿入りしたわけではないので除外します。
古今東西“政略結婚”というものは同盟を結ぶにあたり1番勝手良く使われるものだと思う。相手の家に嫁ぐ方は人質にもなるけど同時にスパイにもなれるし。
対外的にも良いアピールにはなる。
ただ玖蘭は兄妹婚が主流の純血種でも特に貴重な血が流れているしね、今までに嫁や婿として他家に嫁がせた事はあっても本家である玖蘭家には一滴も他家の血は混じっていない。
反対に南風野は女系なので他家から婿入りしてもらう事が殆どで兄妹婚は滅多になく、逆に珍しい事例となっている。
これから先に私の下に弟や妹が生まれる可能性はあるが弟が生まれる確率はかなり低いと思う。
ましてやその“弟”と私が恋愛関係になる事もないだろうし…と、その理由の1つをうっかりと思い出してしまい慌てて頭を振って追い出す。
一体どうしてハンター協会との取り決めの資料からこんな突飛な発想に至ってしまったのか…、時間がないのだから今は他の事を考えている余裕などない。
チラリと一条さんの様子を見てみれば、にこにこと楽しそうにしかし早いスピードでページを捲っている。
1番上の段の空いたスペースを見るに今読んでいるのは3冊目らしく…ペースの速さに感心してしまう。私はまだ1冊目だというのに。
もしかして私、資料探しに向いてないのかな?
長期休暇中に行っていた資料探しも私よりすうちゃんの方が効率よく探していたと軽く落ち込んでしまう。
「玻璃ちゃん?」
それに目聡く気付いたらしい一条さんが名前を呼んでくるので、なんでもないと答える。
2度目となるからか納得していない様で訝しげに見てくるので気を逸らす為に思ったこと――本を読むのが早い――という感想を口にした。
「そうかな?」
と返ってきたトーンは明るいもので、納得してくれたらしい。
「僕、本を読むの好きなんだよ。
早く読めたほうがいっぱい色んな本が読めるでしょ?色んな世界を楽しむ事が出来る」
話をしながらもその視線は文字を追っていて…私も本を読むのは好きな方だけど、そんな器用な真似は出来ない。
どちらかに集中するか、どちらもおろそかになってしまう。
一応一条さんを習って視線は本へと向けたが、やはり頭の中に内容が入ってこない。
「辞書とかもおもしろいよね」
…え?
今、なんか信じられない事を言いませんでした?
「あれ?玻璃ちゃんは読まない?辞書?」
驚愕の視線を向けたのが分かったらしく逆に訊ねられてしまう。
私にとって辞書は調べものをする時に使うものであって単体で読むものではない。
「けっこうおもしろいんだよ?新しい言葉とかが出てきたり意味が変わってきたりして」
それは上級者向けの楽しみ方では?私は無理だ。
これが本当の本好きならば私にはなれない。
対抗心を抱いていたわけではないが、白旗を振った。

END



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