君が笑うその世界を愛してる3

□第111夜
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ポツリポツリと交わされる会話の他はページを捲る音だけが室内に響く。
一条さんと違い私は会話しながらだと効率が落ちるので、一条さんが遠慮してか話しかけてくる事がなくなってから体感で数十分。…正直にいおう、飽きた。
自分が興味のある事ならともかく、興味のない本を読み続けるのは苦痛だ。あったらあったで熟読してしまうので効率的には無意味である。
チラリと見上げた一条さんは楽しそうだが…辞書を楽しめるレベルの本好きだから参考にはならない。
それに…。
パラパラと最初から最後までザッと捲ってみるがやはりパッと見では図面の様なものは載っていない。
しかし見取“図”と名は付いていても必ずしも“図”で描かれているわけではないのが困りものだ。
見取図というものはその気になれば全て数字で書き記す事も出来る。秘密の通路などは代々口伝か第三者がすぐに分からないように暗号を用いて書かれている…等はありえる事だ。一目でわかるものは誰の目からもわかりやすくする為に作られたものであり、目的が違う。
普段は隠して置かなければならないものだが、万が一失われた場合を考えての備えでしかない。
その為にこうして全てのページに目を通さなければならない。
地味な上に時間のかかる作業。
更にいうなら確率的には低いだろうが、そもそも資料室に置いてないという可能性だってある。
…そう考えると一気にやる気が失せる。
ほぼほぼ素通りする文字をそれでも読み進めていた時だ、ふと思いついた事があった。

地下に部屋が存在するのは確定事項。

地上部分と違い地下へ降りる事が出来るのは元老院の中でも限られた者だけだし、純血種であっても特別な理由がない限りは地下への入室の許可は下りない。
地下への階段の場所を知る者も少ない。
何故なら地下は牢でもあるからだ。
かつて閑様は元老院の檻の中で暮らしていた。その場所は地下にあったはずだ。
つまり大切な物を隠すなら地下の方が確立が高いのではないだろうか?

地下なら床に穴を開けて侵入すればいいのでは?
チラリと、また一条さんを盗み見る。
私が実行すれば派手な音を立ててしまい色々とバレてしまう可能性も高いが一条さんの能力ならそんな危惧もない。
タンッと爪先で床を叩いてみるが毛足の長い絨毯のせいで床下が空洞――つまり地下階があるのかどうか判断しづらい。
あったところでこれだけの動作でわかるような造りはしていないと思うけど。
さて、どうしようかな?と考えては見るが私の中では決定事項になってしまった様で他の案が浮かぶ隙間がない。
あれ?これっていい考えじゃないかな?楽だし。と後押ししかしなくなっている。
少しでも冷静になれば、他の方法があるだろうと突っ込みの入れようもあるがもうこれ以上の名案は出てこない。そして実行力は無駄に高い。
「いち…じょ…さ…」
私の中で出た結論に従い一条さんを呼ぶ。
「ん?なに?」
見つかった?と優しく確認されるが首を振って否定した後にたった今思いついたばかりの妙案を提案するーー思いっきり引かれました。
「なんでそんな乱暴な案ばかりでてくるの!?」
非難と泣きの入った抗議の声には何の事かわかりませんとばかりに笑みを浮かべておく。
父様(玖蘭)と母様(南風野)の血が混じった結果としては妥当じゃないかな?とは心の中だけの声だ。
にこにこと笑みを浮かべたまま爪先で床を打って示す。絨毯のせいで音が出ないのが残念です。
「えええええぇぇ」
たっぷりと困惑を乗せた声と視線には、もう1度床を打つ事で答える。
どうにか考えを改めてもらいたいと説得してこようとするが、それに頷くほど私の意志は弱くない。
「じか…な、い…」
「でも…」
反対に私の方が説得ともいえない言葉を放つ。
それで迷う素振りを見せるのが甘いところ。…それでは私に勝てない。
落ちる沈黙。
見詰め合うこと数秒。
「じぶ…で…す、る…」
くるりと向きを変え、さてどこに穴を開けようかなと考える…前に大きな溜息がした。
「全く、しょうがないね」
次には承諾の言葉。
「玻璃ちゃんって、ちょっと枢に似てるよね。そうやって自分の思い通りに人を操るところ、きかせ方の方向性は違うけど」
続けてボソリと呟かれた言葉に心をグッサリと傷つけられました。
…うん、これからはちょっと改める。
アレと同じになってはいけない。と反省をした。


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