小ネタ置き場

番外までいかない、思いついたネタを置く場所
◆no title 



大抵の者が予想した通り、少女が教室に現れる事はなかった。
時間が経つごとに悪くなっていく枢の機嫌に、皆は早く授業が終わらないものかと何度も時計を見る。
いっそサボって帰ってしまった方が良いのではないだろうか?と思っても、音を立ててしまえばそれが起爆剤になってしまうのではないかという恐怖のために席を立ちあがる事もできない。
無駄話をする勇気のあるものなど1人もおらず、普段からは考えられないほどの静寂が教室内を満たしている。
異様な雰囲気を教師も感じ、中には自習と一言告げ逃げ帰ったものもいた。
賢明ではあるが、生徒を見捨てるその所業に反感を買ったその教師は…その日を境に学園を去ったのはまた別の話だ。

「………」

そんな中、一条の元にはまたも多数の視線が集まる。
その視線の意味は“枢様をなんとかしろ”と訴えるもの。
しかし今日ばかりは期待に応える自信は微塵もない。
こんな状態になった枢に近づいて無事でいられるものなど、妹である優姫か…それこそ今回の原因にもなった少女以外にはいない。

――触らぬ神になんとやら…で、ひたすら無視を貫くしかない。

ちくちくと刺さる視線を意識しながら、自分の方が具合が悪くなりそうだと…もう何度目かも分からぬ溜め息を吐いた。

END

一応、これでお終いです。


2014/02/11(Tue) 15:55  コメント(0)

◆no title 



どうやら1日で回復したらしい枢は、翌日いつもの様にロビーに現れた。
「お兄様、もう大丈夫なんですか?」
先にロビーに来ていた優姫が駆けより訊ねれば、枢は微笑んで頷いた。
「ああ、もう大丈夫だよ」
安心させるようなその笑みに、優姫も微笑み返す。
今日も仲の良い兄妹の様子を、夜間部生達も微笑ましげに見守る。

そして開かれる門。
いつもの様に普通科の生徒の歓声の中を進めば、風紀委員3人の姿が見えてくる。
その中の1人、ミルクティー色の髪を持った少女。
いつもであれば、その姿を見つけるなり早くなる枢の足は…昨日と同じく速度を変えない。
話し掛ける事も、立ち止まる事もなく通り過ぎ校舎へと向かう枢を、隣を歩く優姫は心配そうに見上げた。
「…お兄様?」
「なに、優姫?」
やはりまだ具合が悪いのかと問いかけようとするが、向けられた笑みになんでもないと答える。

「あれって…」
「期待、してるんじゃない?」
「……やっぱり?」

枢と優姫の後方を歩く3人――莉磨、支葵、一条は、その枢の様子を見てひそひそと会話を交わす。
枢の様子は普段と変わりがないように見えるが…その実、少し浮かれている様にも見えなくもない。
昨日と同様の事をすれば、また心配をした少女が気にするのではないかと…そう期待していると推測できる。
ちらりと少女の方を見れば、こちらも普段と変わりなく警備をしている。

「玻璃ちゃん…どうすると思う?」

少女がどんな行動を取るかと訊ねれば、どうもしない。との返事が莉磨と支葵、それぞれから返ってくる。

「昨日、もうしないって言ってたし…」
「簡単に騙されないと思う。…優姫様と違って」

淡々と語る2人に、そうだよね…と一条は溜め息を吐く。
(他の男にしたらどうするの?で、押し通そう…)
一晩かけて用意した言い訳が、どうか通用してくれと…祈らずにはいられなかった。

END

貧乏くじを引くのは大抵一条さんです。


2014/02/10(Mon) 23:31  コメント(0)

◆no title 



そのまま2人と話を進めていくと、一応“体温計”は使うらしい。
けれどその前の段階、熱があるかもしれない…といった状態で計る時は額と額を合わせて計るのだという。
高いか低いかしかわからなくとも、体調の不良を判断するには充分で…。
幼い頃からそうやって育ってきた2人は、熱は“額”で計るものだと…それが常識だと疑う事なく思っていたらしい。

「…教育って怖いね」
「むしろ洗脳といえるんじゃ…」

3人の会話をこっそりと聞いている夜間部生は、こそこそと言い合う。
頭に思い浮かべる人物は、親バカという言葉が似合う2人。
きっと娘とのスキンシップのために、ずっと額で熱を計っていたのだろう。
デレデレとした表情まで思い浮かべそうになったところで慌てて頭を振ってそれを消す。…これ以上は不敬罪になるかもしれない、と。
“純血の君”の教育方針に異議を唱える勇気など持ち合わせてはいない。

「……普通は“額”では計らないんだ」

俯き、表情の見えない少女がボソリと聞いてきたそれに、一条は恐る恐る頷いた。
「……そう」
それを聞き、段々と少女の纏う雰囲気が怖くなっていく。
「…玻璃ちゃん?」
「優姫ちゃん、これからは熱を計る時は手で計ろうね」
1人、まだ分かっていない優姫は、そんな少女を見て不思議そうに名を呼べば、少女はにっこりと笑ってそう言った。
「え…?」
突然の言葉に首を傾げる優姫に、約束だよ?と一方的に告げて少女は一条に笑顔を向ける。
「ありがとう一条さん。私も2度としないよ」
「……どういたしまして?」
ワザとらしいほどに清々しいその笑顔と“2度と”のところに力を込められたそれに、うすら寒いものを感じながら一条はなんとか言葉を返した。
おそらく、この件が今頃寮で寝ているだろう枢に知られれば…余計な事をと怒られるかもしれない。
体調が戻った枢に責められた時の言い訳を今から用意した方が良さそうだ、と溜め息を吐きながら教室を出ていく少女を見送った。

END

このあと暫くは李土様と口をきかないと思われます。



2014/02/09(Sun) 22:26  コメント(0)

◆no title 



極めて自然に行われたそれに、驚きの視線が2人に集まる。
「…大丈夫そうですね」
「だから言ったのに…」
ややあって離れた優姫がホッとしたように言えば、優姫ちゃんは心配性だね、と少女は微笑む。
それに。
「えと、なんで額で計ったの…か、な?」
絶好の機会だとばかりに一条が口を挟む。
「え?」
「なんで?って?」
質問の意味自体が分からないとばかりに、2人は顔を見合わせる。
「…熱を計る時は“額”…ですよね?」
どこか間違っているのだろうかと、首を傾げる優姫に少女も同意する様に頷く。
「…違う、の?」
自分たちに集まる視線に疑問に思ったのか、少女の方が一条に訊ねる。
「……普通は“手”で計るかなぁ?」
それだって親しい間柄でしかしないだろうが。という言葉は飲み込む。
「え?でも手だと冷たかったり、反対に温かったりするから正確には計れないから、額で計るのが普通だって」
それに優姫が反論する横で、少女は何かを考え込むように黙り込む。
「それ、誰が言ったの?」
更に質問を重ねれば、優姫は即答し、少女は少しの躊躇いの後に同じ答えを返す。
「お父様です」
「……父様」
2人の父親は兄弟の関係で…、浮かんだその顔に妙に納得できた。

END

怪しみだした玻璃ちゃんと、まだ気付かない優姫。
犯人(笑)は玖蘭兄弟です。


2014/02/08(Sat) 21:02  コメント(0)

◆no title 



期待の視線を一身に集めた一条はいつもの笑顔を浮かべたままこっそりと溜め息を吐く。
面倒事はいつも自分に回ってくる…と、そうは思うが先ほどの少女の行動が気になったのは一条も同じ。
今を逃せば、今後訊ねる機会が巡ってくるのはいつになるか…。
元より1度興味を持った事を、途中で忘れる事などない。
聞くまでずっと気になり続けるのなら、いまここで聞いた方がいい、と。覚悟を決めた一条は2人に話し掛けた。

「玻璃ちゃん、優姫ちゃん…」

声を掛ければ直ぐに2人が振り向く。
「一条さん?」
「なんですか?」
軽く手を振りながら近寄れば、厭われる事なく会話に参加する事ができる。
「え〜と…」
けれど、先ほどの事を一体どうやって訊ねればいいのか…までは考えていなかった。
「…優姫ちゃんは大丈夫?体調とか崩してない?」
曖昧な言葉で場をつなぎ、そうして口にした言葉に優姫は首を傾げ、少女は心配そうに優姫を見る。
「…昨日はずっと枢に一緒にいたでしょ?」
枢が熱を出したのなら優姫ちゃんも…と訊ねる。
何をしていたのかは知らないが、昨日は授業が終わってからずっと2人は枢の部屋で過ごしていた。
「ああ…大丈夫ですよ」
その時の事を思いだしたのか、優姫は笑顔で心配ないと告げる。
まぁ、もしも優姫が体調を崩していたのなら枢が黙ってはいないので元より心配はしていない。
ようは話のきっかけになりさえすればいい。
「玻璃ちゃんは?」
「…私?」
自分に話をフラれた事が意外だとでもいうように、少女が言葉を繰り返す。
「うん、ほら…昨日は寒かったから」
ずっと外を見回りしてたよね?と続ければやはり笑顔で心配ないと告げられる。
「…本当ですか?」
それに、疑わしげな表情を向けた優姫が少女の方を向き。

コツンと、自身の額と少女の額を合わせて見せた。

END

みんなの期待に応える一条さん。


2014/02/07(Fri) 08:19  コメント(0)

◆no title 



優姫と少女が普通に会話を続ける中で、気になる事が1つ――なぜ熱を計るのに額を合わせたのかという事。
そもそも言葉で訪ねれば済む話。
誤魔化される事を警戒したとしても、手で計れば十分。
なのに何故あえて“額”で計ったのか…。
例えば枢と少女が恋人同士というのなればまだ納得ができる。
けれど2人の関係は枢が一方的に好意を示し、それを少女が厭う…というもので。
枢の方が少女の熱を計るのならば、まだしも…少女の方からそれをする事は考えにくかった。
そして優姫がその件を訊ねない事もまた不思議だった。

浮かんだ疑問を解消したくはあるが、この2人にそれを聞くのは躊躇われた。
同じ学園に通っているとはいえ、気安く話し掛けてはいけない存在――それが“純血の君”だ。
特に少女に対しては、その正体が判明するまで冷たく当たってきたという自覚がある。
今さら“普通”に接しようとしても、少女が“純血種”だからすり寄ってきたのだと思われるのがオチだ。
また、嫉妬深い枢の怒りを進んで買いたいとも思わない。

けれど、気になるものは気になるのだ。

自然、生徒たちの視線は1人の人物へと集まる。
この中で1番“純血の君”に近しい人物。

元老院を纏める一翁の孫であり、枢や優姫とも友人に関係にある人物――一条拓麻に。

END

一条さんは頼りにされていると思う。
枢様からも、他の夜間部生からも。…その分、苦労をしてそうではあるけど。
……中間管理職っぽいよね。


2014/02/06(Thu) 22:28  コメント(0)

◆no title 



教室から枢…とそれを追いかけた2人の姿が見えなくなれば、それを目で追っていた優姫が視線を少女へと向ける。
「どうしてわかったんですか?玻璃ちゃん?」
妹である自分でも見抜く事が出来なかった枢の不調。
なぜ少女は見抜く事が出来たのかと…不思議に思い訊ねれば、歯切れの悪い答えが返ってくる。
「………父様が熱出した時と雰囲気が似てた」
「…伯父様と?」
つい先日判明した少女の父親は、枢と優姫の両親である悠と樹里の兄、玖蘭李土である。
まだ数回しか会った事のない伯父と自分の兄が似ていると言われ、優姫は首を傾げる。
「…父様なんでもない時は騒ぐくせに、本当に具合悪いと隠すくせがあるんだよね」
でもそういう時って、普段より口数少なくなるから…。と、理由を述べる少女に優姫は夕方、起きだしてからの枢の様子を思い出すが、特に普段と変わった様子はなかったはずだ。
それを指摘すれば少女はとても嫌そうに言ってのけた。
「……今日は話し掛けてこなかった」
どこか拗ねたような響きを持つそれに、そういえば…と登校時の事を思いだす。
いつもであれば夜間部生の目があろうが、普通科の生徒の目があろうが構う事なく少女に話し掛ける枢が、今日は無言で通り過ぎていた。
…それが具合が悪いのかと疑った根拠だという。

つまり、枢が少女に構わないのは不自然だと…そう思っているということ。

それは、惚気というやつではないかと…純血の君同士の会話を聞いていた夜間部生達は思った。

END

構われればウザいけど、構ってくれないとなんか物足りない。…そんな心境?


2014/02/05(Wed) 23:51  コメント(0)

◆no title 



その突然の奇行に周囲は驚き声をあげ、枢は固まってしまって動けない。

「………っ!?」
「なっ!」
「ちょっとあなた…!」
「玻璃ちゃんっ!?」

瞳を閉じ、触れそうなほどに近くにある唇。
まるでキスを強いるかのようなその行動に、枢の心拍数が知らずに上がっていく。
「……はり」
自身も瞳を閉じ、そっとその柔らかな唇に自分の唇を重ねようと…枢が動いたのを見計らったようなタイミングで少女は身を引いた。
そして、呆れた溜め息を1つ吐く。
「やっぱり熱がある…」
そして呟かれた一言に騒ぎは一度静まり、皆の注目が今度は枢へと集まった。

「ねつ…?」
「……気付いてなかったの?」

不思議そうに少女の言葉を繰り返した枢に、少女はそれこそ驚いたように訊ねる。
かなり高いよ。と続けられたそれに。
「……お兄様、具合悪かったんですか?」
枢の妹である優姫だけが心配そうに訊ねた。
「今日はもう帰って寝てなよ」
「そうですね、後は私に任せてください」
少女と妹に促され、枢はどこかぼんやりとした表情のまま素直に席を立ちあがる。
…その足取りがどこかフラフラとしたものなのは、決して熱のせいだけではないだろう。

「待ってください枢様!」
「…送って行きます」

その姿が教室から出て行ったあとに、正気に戻った藍堂と架院が慌てて後を追い掛けた。

END

ときどき大胆なことをする玻璃ちゃん…。


2014/02/05(Wed) 08:20  コメント(0)

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黒主学園。

――それは、人間と吸血鬼が共存する学園。


夕方の入れ替えも済み、普通科の生徒が全員寮へと帰るのを見届けた風紀委員の3人は、次の仕事へと向かう為に校舎とは反対の方向へと足を進めた。

「玻璃様…?」

その途中で足の止まった少女の名を、黒髪の青年が呼ぶ。
少女はそれに答える事なく、何かを考え込むような表情で校舎を見ていたかと思うと…やがて諦めたように溜め息を吐いた。
「先に行ってて…」
「玻璃様!」
止める様に呼ばれた自身の名前にも振り返る事なく、少女は真っ直ぐに校舎の中へと入って行った。
その後を、僅かに遅れて青年も追っていく。
…1人取り残された銀髪の青年は、その様子を何を言うでもなく見送ったあと。
1つ溜め息を吐き2人とは違う方向に向かって歩き出した。


校舎の中に入った少女は、真っ直ぐにとある教室へと向かう。
夜間部生が使っている教室にはまだ教師はきていないらしく、ざわざわとした様子が廊下にいても伝わってくる。
その教室のドアを躊躇うことなく開け放った少女は、集まる注目を気にする事なく奥の席に座る人物の元へと歩みを進める。
少し前であれば、そんな少女の行動を咎める声が上がっただろうが今はもうない。
それというのも少女が吸血鬼の中でも特別な“純血の君”と呼ばれる存在だという事が知れ渡ったからだ。
「…玻璃?」
「玻璃ちゃん?」
そんな少女に声を掛ける事が許されているのは2人だけ。
同じ“純血の君”である枢と優姫は、突然現れた少女の名を問いかける様に呼んだ。
その問い掛けすらも無視をして、少女は枢の前に立つ。
「…玻璃?」
少女が自分から枢に近づく事は最近では滅多になく…普段との違いに戸惑うように名を呼んだ。
「枢様…」
それに答えるかの様に、少女は枢の名を呼ぶと――徐に自身の額と枢の額を合わせた。

END

偶には枢様と玻璃ちゃんをイチャイチャさせようかと再び甘に挑戦。
見バレ後設定。


2014/02/05(Wed) 00:23  コメント(0)

◆no title 



「玻璃から招待状が届いたぞ!」

とても嬉しげに、蝶を模った封蝋のされた手紙を手にとる少年。

「これはもう僕のことが好きだと言うことだよな⁉︎」

問いかけでありながら異論は認めないその口調。

「さようですとも…」

それに、引きつった顔でうなずいたのはこの少年に仕えて数十年になる使用人。
…彼は賢明にも、招待状を送ってきたのは少年が好意を寄せている人物ではなくその母親からだということ。
よって少年が好かれているわけではないこと。
むしろ嫌われていること。
…など。

実にさまざまな事実を飲み込んでみせる。

…誰だって八つ当たりなどで死にたくはない。

END

南風野から招待状が届いたある純血種の家での一幕。
…名前を伏せてもバレバレかな?


2013/12/12(Thu) 23:38  コメント(0)

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