小ネタ置き場

番外までいかない、思いついたネタを置く場所
◆no title 

カレンダーに描かれた赤丸を見て、李土はとうとうこの日が来たのかと感慨を胸に満たす。
日付の感覚などなくなる生活をして早数百年。
それでも忘れてはならない日というものが存在する。――今日はそんな日の1つだ。
うん。と1つ頷いて。
決意を新たに1つ。

前々から温めていた計画を実行する為に、李土は恋人の姿を求めて寝室を出た。


探していたミルクティー色を見つけるのは簡単だった。
予想していた通りにリビングにいた瑠璃は、カウチに座り本を読んでいる。
古びた革表紙に刻まれた紋章は過去にも何度も読んでいるのを見かけた事がある。…確かあれは瑠璃の母親である愛璃の紋章だ。
南風野家の者は家紋とは別に個人の紋章を持ち、それを己の持ち物に刻む習慣がある。
主に研究を纏めた書物などに使われるており、瑠璃ももちろん持っている。
剣と杖を重ねあわせたもの――偶に見かけるそれに勝手に触れれば怒られる(どころではない)ので良く覚えている。
一瞬、後にしようかと躊躇うも瑠璃の表情を見て思い直す。
どこかつまらなさそうな表情から、既に1度は読んだものなのだろう…。いつもの鬼気迫る様な、真剣な雰囲気がない。
ならば遠慮は無用。とばかりに瑠璃、と恋人の名を呼ぶ。
思った以上に緊張しているのか(断じて恐怖のせいではない)どこか弱々しくなった呼びかけに反応した瑠璃が本から顔をあげる。
「李土…」
その表情が嬉しげに輝いたのは、決して己の欲目だけではないだろう。
読みかけの本を閉じるという、初めて読む本であれば絶対にしない行為をしながら瑠璃はそっと座る位置を直す。
ごく自然に行われたそれは、李土が座る為のスペースを開けるため。
恐らくは無意識に行われたそれに、瑠璃の裡(なか)の自分の占める割合を思うとこちらも自然と頬が緩む。
それを自覚し、慌てて表情を引き締める。
…しまりのない顔でこれからの言葉を綴るなどしてはならない。
どうしたの?と視線で問うてくる瑠璃がかわいいとか…思ってはならないのだ。

なぜならこれから

「瑠璃。悪いが僕とわ…」
「でてけ」

彼女に別れを告げなければならないのだから…。

END


2015/04/01(Wed) 23:19

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