小ネタ置き場

番外までいかない、思いついたネタを置く場所
◆no title 

それは、普段と変わりのない1日の始まりだった。
いつも通り広いベッドの上、太陽が落ちて暫く経ってから1人起きる。
いつも通りに1人で身支度を整えリビングに移動。
そこには愛しい恋人が(大抵は本を読んで)自分が来るのを待っている。

おはようと声を掛ければおはよう…と目線を合わせる事もなく素っ気ない返事が返ってくるが、その本のページがそれ以上進む事はない。
いつまでも止まったままのページに内心で笑みながら恋人の隣に座り、一方的に話し掛ける。
そう、だとか、ええ…、だとか。
生返事に近い返事しか返ってこないが、会話に集中しているという事に最近ようやく気付いた事実。
後日、聞いていないと思っていた話題を振り返られる…という事を何度か繰り返すうちに分かった事だ。
それに気付いてからは「聞いているのか?」と確認を取る事がなくなった。
その為、問い掛けるたびに機嫌を損ねていた恋人との仲は良好と言えるだろう。
素直になれない恋人の、そんなところが可愛いと思える様になって一体どれくらいの月日が経ったのか…百数年前は考えられなかった幸せな日々に李土は満足していた。
――たった1つの事を除いては…。

その不満を解消しようと…既に何度も挑戦し拒否されているにも関わらずに今日もまた挑戦をするつもりでいた。

「李土!」

瑠璃、と恋人の名を呼ぶ前に、その恋人から名を呼ばれたのはリビングに入って直ぐ。
そのままとても嬉しそうな笑顔を浮かべて抱きついてくるのを混乱しながらも受け止める。
「…瑠璃?」
いつもと様子の違う恋人の名を、感情そのままの声音で呼ぶが瑠璃は気にした様子も見せずに李土を見上げてくる。
「あのね…」
こくん、と首を傾げられ上目遣いで話し掛けられる。
滅多に見れぬその仕草に浮かんだ疑問は後に回し堪能する事にした。
どうした?と自身も緩んだ表情を曝し、瑠璃のミルクティー色の髪に指を通しながら訊ねる。
その口から何を言われるのか予測をたてる事すら不可能で…完全に待ちの姿勢に入る。

「こどもができたの」

袖口を引っ張られ、屈めと強要され少しだけ屈めた姿勢。
縮んだ背の差を利用して、李土の耳元で内緒話をする様に囁かれた言葉。
幼子の様な舌っ足らずの口調で告げられたそれに。

頭の中が真っ白になった。

END

李土様が思い出している過去の話。


2015/04/03(Fri) 00:34

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