小ネタ置き場

番外までいかない、思いついたネタを置く場所
◆no title 

滴り落ちる涙で絨毯の色が濃くなっていくのを見ながら、ぐるぐると回る思考。
それは最後には1つの言葉――すなわち“どうして?”という言葉に落ち着く。

「李土?」

心配そうに自分の名を呼んでくる恋人。
しかし彼女は自分を裏切った。――それを悪いとも思わずに…。

「…誰の子だ?」

湧きだす怒りは恋人に向けてのものもあるけれど、それ以上に顔も知らぬ“誰か”に向けての方が大きい。
その怒りを抑える気はいっさい湧かず、ぶつける相手の名を訊ねる。

「私の子よ?」
「それはさっき聞いた!相手は誰だと聞いているんだ!!」

怒りによってなんとか立ち上がる事が出来た李土は、感情のままに声を張り上げた。
質問の意図は解っているだろうに、あえて見当違いの答えを返してくる恋人は性質が悪い。
苛立ちは既に頂点を突き抜けていて、怒鳴ると同時に何かが壊れる音がしたが構っていられる精神状態ではない。
「あら?李土は両手じゃ足りないくらい子供がいるくせに私にはダメっていうの?」
「それとコレとは別だろう!?」
昔の事を持ち出してくる恋人に、過去の事ではなく現在の話をしているだと訴える。
瑠璃は僕という恋人がありながら浮気したのか?」
「私の不貞を疑うの?酷いわ!」
うるり、と瑠璃色の瞳が潤む。
そのまま顔を覆って泣き出す恋人に、一瞬だけ自分が悪い事をしている様な気になってしまう。
過去、貴族に薦められるままに多くの女性と関係をなした。
その結果として生まれたものに自分は一切関知していないが…自分の血を引く子供がいる事は知っている。
だが、それはどうでもいいと切り捨てる事が出来るもの。
瑠璃との関係は違う。
もしも瑠璃との間に子供が出来たのなら…一緒に育てていく覚悟は出来ている。
否、それは覚悟ではなく、当然の事だ。
なのに、瑠璃は違うのだろうか?
ずっと、自分を想っていてくれたはずなのに。
その想いが叶って嬉しいと言っていたのに。

自分を裏切るのか?

「……だが、そういう事だろう?」

泣く瑠璃を見下ろしながら。
自身も涙を流しながら。

訊ねた声は酷く弱いものになった。

「李土、今日が何月何日か知っていて?」

震える声で訊ねてきた瑠璃に。
今、それが。
何の関係があるのかと思いながら。

知らない、と答えた。

END


2015/04/10(Fri) 00:23

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