小ネタ置き場

番外までいかない、思いついたネタを置く場所
◆no title 


顔を俯けたまま、声だけでなく体まで震わせて泣く恋人を見下ろしながら、泣きたいのはこちらの方だと…自身も涙を流しながら思う。
「きょ…今日、は…ね」
震える声でなんとか言葉を紡ぐ瑠璃に、無理はしなくていいと言ってあげたい気持ちが湧いてくるが、それを口にする事は出来ない。
話し合って解決する問題とは思えないが、怒りのままに力を揮っても意味がない。
今までならそうして、そこで終わりにしただろうが瑠璃との関係をここで終わらせる事は出来ない。
たった今、裏切りを口にした恋人をそれでも手放したくないと思う。
彼女のお腹の中にいるという自分の血を引かない子供。
きっと愛する事は出来ないだろう。
その子をみるたびに彼女が自分を裏切った事をまざまざと見せつけられる事だろう。それでも。
それでも。

彼女の子供であるならば一緒に育てていく事は出来る。
出来るのならば相手には一切似ず、彼女だけに似ていればいい。
それならば愛しているフリくらいは出来るはずだ。
相手には2度と会わせず、場合によっては抹殺して…。

「あっははははは…!も、もうダメ…」

悲壮な覚悟を決めつつ、思考が物騒な方向に向かったのを見計らったように腕の中にいた恋人の笑い声が響く。
耐えきれないとばかりにお腹を押さえ、笑いの発作に見舞われる恋人は先ほどまでの哀しげな雰囲気は微塵もない。…というよりも。

「…瑠璃?」

最初から泣いていなかったのではないだろうか?

そんな疑問が涙を拭う恋人と目が合った瞬間に湧いた。


END



2015/05/08(Fri) 23:52

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