小ネタ置き場

番外までいかない、思いついたネタを置く場所
◆no title 

呆気にとられている李土を置き、瑠璃はひとしきり笑う。
ようやく笑いが収まった時にもまだ李土は困惑から抜け出せてはいなかった。
「あのね、李土…」
涙を拭いながら瑠璃は子供など出来ていない、と。
先程の話は全て嘘だと言った。

「うそ…?」

呆然としたまま言葉を繰り返し、じわじわとその意味が浸透してくる。
最初に湧いたのは安堵の感情で。
先程とはまた別の意味の涙が李土の頬を伝う。
良かった…と思わず漏れた言葉に、瑠璃は微笑を浮かべながら李土の涙を指で拭う。
「私が貴方以外とそんな事をするわけないじゃない。………貴方とは違うんだから」
慈愛すら感じさせる優しげな笑みとは裏腹に、触れてくる指はとても痛い。
眼球を抉られるのではないかという物理的な恐怖と、低い声音に精神的に身の危険を感じる。
「る、るり……?」
どうして嘘を…それもこんな性質の悪い嘘を吐いたのかと問いただしたいのに、今それを聞いては危険だと本能が訴える。
浮かべる笑みとは真逆に、瑠璃の機嫌が急降下していくのを全身で感じる。
本来であれば、責めていい立場のはずの李土が何も言えないでいるうちに瑠璃はさっさと1人で種明かしをしていく。

「今日はね、“エイプリルフール”と言って“嘘”を吐いても良い日なのですって」

にこにこと、いっそワザとらしい笑みに冷や汗と悪寒が止まらない。
「そ、そうなのか…」
瑠璃から視線を外せないままに退路を模索するが…そんなものが用意されているわけがなく、また上手くこの場を逃げられたとしても捕まるのは時間の問題。
その時に逃げたぶんが+され、もっと酷い目に合うと…経験が語る。
理由が解らぬ恋人の怒りはおそらく過去の自分の所業が原因だ。
心当たりなど全くなく――或いはあり過ぎて絞れない――閻魔の裁判に出頭する亡者の様に覚悟を決める。
決して逃れる事など出来ず、粛々と受け入れるしかない判決。
大人しく受け止めれば少しは温情と言う名の減刑があるかもしれないと…僅かな期待を抱く事だけが許されている。

嘘を吐いた理由はわかった。
だが“どうして”先の嘘を吐いたのかはわからない。
しかしそれを訊ねるという事は…。

自らの死刑執行書類に判を押すのと同義。
そんな愚行は犯せぬと。

李土は一見上機嫌に。
しかし実際はかつてないほどに怒りを湛えた恋人の一挙一動に身構えた。


END


2015/05/08(Fri) 23:53

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