魔女の物語集
□ホーキンス4
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「船長、元気ねぇなー」
「まぁ、・・・今はそっとしとこうぜ」
あんなに嬉しそうな船長を見られたのも初めてだったからなと、気がついたらいなくなっていた恩師という魔女を思い出す。
「見た目はめっちゃ若かったんだけどなぁ」
「ああ、魔法で若さを保ってたって本当かな」
「信じざる終えねぇけどな」
あれで百歳近いってありえないだろと集まっていたみんなで話していると、
「先生は昔から姿が変わらなかったからな」
いつの間にかホーキンスが後ろにいて悲鳴をあげそうになった。
「む、昔って、船長が子供の時ですか?」
「それもだが、お婆様が子供の時から変わっていないらしい」
「おば、」
「え?」
ホーキンスが何を言っているのか理解できないみんな。
「俺の生まれた場所では魔術で生計を立てている者が多くいたが、」
その誰もが魔女の存在を知っており、いつ見ても姿が変わらないと言っていたと、懐かしむように水平線へ目をむけた。
「先生はその力も知識も、誰も足元にも及ばなかった」
子供の時から感情の起伏が薄かったホーキンスを心配して、母と祖母が町に来た魔女の前へ出たのだ。
『ティ様、どうかお力をお貸しください』
そういってホーキンスを見せた。
『あなた、邪視持ちね』
家族にもどの魔術師にも言われた事と同じ事を言われた。
生れつき、死相が見えた。
決まってみんな邪視持ちと言った後哀れむような顔で見てきた。だが、ティは違った。
『良い運と眼を持っているわね。ホーキンス』
美しい顔で微笑み、頬に手を添えて来る。
『あなたは死が近づいてきた人間の分かる邪視を持っている。そして、先見の明があるわ』
『本当ですかティ様』
『ええ、こんなに良い眼を持った子は珍しいわ』
「それからお婆様が先生に頼み込んで、弟子になったんだ」
「へー!!」
「それっていくつの時ですか?」
「五才だ」
それから十歳までの五年間を魔女の元で修業し、先見の明を鍛え魔術の何たるかを学んだ。
「年に一度は家に帰らされたが、それ以外は先生と生活していた」
ドングリの巨木全てが、魔女の家だった。
「修業って、どんな事したんですか?」
「いろいろだな。幻獣と呼ばれる生物との関わりかたから薬の調合。悪魔の呼出し方」
「・・・へー」
「後は、先生に連れられて沢山の世界を見た。勉強の次は実戦だと言って戦火の中に飛び込んだ事もあった」
どんな時も冷静な判断をしなければならないと、実戦はいつも唐突だったが。
「・・・よく生きてますよね」
「俺が気がついていないだけで、何度か死んでいたかもしれない」
「怖いこと言わないでくださいよ!」
『いらっしゃいホーキンス』
美しい、偉大な魔女だった。
修業が終わり、町に戻ってからは魔術師たちから羨望の眼差しで見られ続けた。魔術師になってからは、異常なまでの嫉妬を向けられた。
魔術師を志す者にとって、自分がどれだけ恵まれた環境で修業したのか理解出来たのは、皮肉にも魔術師になってからだった。
「島が見えたぞー!!」
見張りの声に弾かれて、みんなが甲板に集まってくる。
「シャボンティー諸島だ!」
もうすぐ魚人島だと、みんなの歓声を聞きながら目を閉じた。