魔女の物語集

□ホーキンス7
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それはホーキンスが七歳の時の話し。

ティがホーキンスをつれてある店へ来ていた。

「ミルクに砂糖は?」
「四つ」

「じゃぁ蜂蜜は?」
「大さじ六杯」

「暖炉の上に用意したミルクは?」
「砂糖も蜂蜜も入れずにカップ一杯」

「ご明答よ」

暗いバーの奥で、ティは笑うとミルクをたっぷり入れた紅茶をホーキンスの前へ置いた。

「ホーキンスは砂糖を幾つ入れる?」
「一つでお願いします」

「蜂蜜を入れてみても美味しいわよ」

テーブルの上に酒の類はいっさい無く、いくつかのカップと紅茶、ミルクが用意されていた。

不思議なお茶会と会話が続いているそこに、四人の男が近づいていく。

バーの店主や、常連の客、たまたま居合わせた客全員の視線が注がれる。

「あんたが、この店に出入りしてる“奇跡の魔女”か?」
「さぁ、どうかしら。私が魔女である事は間違いないですが、“奇跡”を起こしたことはないんです」

きっと人違いですわと、ティはニコリと笑って紅茶を一口飲んだ。

「さぁホーキンス、勉強の続きをしましょう」
「はい、先生」

ティよりも奥の席に座っていたホーキンスは、テーブルを繋げた隣の席にカードを並べていく。

「魔女って事が間違ってなけりゃなんでもいい!あんたに頼みたい事があるんだ!金なら払う!!」

男の言葉を聞いて、魔女はカップを置くとホーキンスに話しかけた。

「ホーキンス、魔法はなんのためにこの世にあるのかしら」
「先生は“幸せになる為”とおっしゃいました」

「そうね。“幸せ”って何かしら」
「それは“人それぞれ”だとおっしゃいました」

「私の思う“幸せ”って何かしら」

ホーキンスは最後のカードを並べ終え、一度手をとめる。

「誰かとテーブルを囲んで、美味しいものを食べることは最高の思い出になるとは教えていただきました」
「そうね、それも私の感じる“幸せ”の一つね」

笑って、テーブルに肘を付けるとその手に顎をのせ、男達を見る。

「私の魔法は私利私欲の為に使うものではありませんの」

ごめんなさいねと、美しい笑顔と色香の漂う赤い唇で言う。

「ホーキンス、これから何が起こるかしら」
「まず、一人が怒ります」

「こっちは仕事で来てんだぞ!話しを聞くだけでもして良いんじゃねぇのか!!」
「もう一人も怒ります」

「俺達も生活がかかってんだよ。痛い目見たくねぇなら協力しろ」

「マスターが止めに入ります」
「あんた達、うちには“魔女に逆らわない”ってルールがあるんだよ」

ふふっと笑って一番前にいた男に話しかける。

「あなた方がお困りなのは分かりました。ですが、まだ私の心は揺れません」

苦笑して、申し訳なさそうに眉を垂らした。

「ホーキンス、次は何?」
「道が二つに別れています」

そう言って、ホーキンスは男を見る。何を考えているのか感情の読めない眼に、男は汗を垂らした。

「諦めて帰るか、先生とお茶を飲むか」
「それは素敵な道だわ」

ティは男の顔を見て首を傾げる。

「お茶に誘ってくださる?」



ティの向かいに男が座り、マスターが持ってきた紅茶とケーキをセッティングしていく。

「ありがとう。ここのケーキはいつ来ても美味しいわ」
「あなたとホーキンスくらいですよ、うちに来て紅茶とケーキを頼むのは」

「俺はマスターのケーキが好きですよ」
「ありがとよ」

立派な髭の生えたいかつい顔で、笑いながらホーキンスの頭を撫でてカウンターへ戻っていった。

「随分、気に入られているらしいな」
「長い付き合いですから。それを差し引いてもよくしてもらっていますわ」

「先生が気に入っている店はどこも居心地が良いです」
「それは私がそう思っているからかもしれないわね」

笑って、紅茶の香りを楽しむと一口飲んだ。

「アドモンドさんは紅茶がお嫌い?」
「、いいや」

「そう、良かった」
「・・・俺は、あんたに名前を教えたか?」

「いいえ、ですが一緒にお茶をしているんですもの、名前を呼べないのは味気ないと思いません?」
「・・・」

「やっぱり、ここのカヌレは美味しいわ」
「前に食べたフォンダンショコラも好きでした」

「・・・」

目の前で繰り広げられているお茶会に、どう対処して良いのかわからない。
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