twin・prince

□11.11
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ドアの向こうから足音が聞こえる。

余程急いでいるのか、力任せに地面を蹴り上げる音はとても忙しない。



静かな所でぱぱっと報告書を書きたい者にはたまらない雑音だった。


今まさに『ぱぱっと報告書を書き上げたい者』であるところのジルは廊下から聞こえる雑音に、イライラとペンを握っていない方の指で机を軽く小突いた。


ともかく報告書をいち速く提出しなければマズイのだ。


報告書を溜め込んでいた自分にも非はあるが、さすがに3ヶ月分の報告書が提出出来ていないのはマズイ。

これ以上遅れたら、たぶん間違いなくカッ消される。





…それなのに、だ。


廊下から聞こえる足音は、あろうことか部屋の前でぴたりと止んだ。


こんな非常時に部屋を訪ねてくる来客の中に、自分にとって都合の良い客など一人もいない。


だからといってドアに鍵をかけても、ヴァリアーに在任している連中の前ではドアの鍵なんて役に立たない。


…つまり、ドアを蹴り潰されるのだ。


ジルの予想通り、ノックなしにドアを開けようとしたらしい来客は、鍵が掛かっていることに気付き。


一瞬の沈黙のあと、ドガァアン!!と凄まじい音がして、ドアが吹っ飛んだ。



「ジールー♪ポッキーゲームしよ?」



ドアだった場所からひょっこり顔を覗かせたのはベルフェゴール。


何よりも最悪な来客にジルはため息を一つ吐き出した。



「無理。今忙しいから」



一瞥をくれて背を向け、ひらひらと手を振って部屋から追い出そうと試みる。


…まぁ、ベルには無意味な抵抗なのだが。



「何それ。カワイー弟がゲームに誘ってやってんのに断る気かよ?」

「誘っていらねーよ」

「無理、ジルに拒否権とかねぇから」



しししっ、と薄く笑ってベルが部屋に入ってきて、気配が背後に立った。


すっと手が肩に乗せられて、ゆっくりベルがジルに体重を預けてくる。



「止めろよ、重い」

「やーだ。ポッキーゲームしてくれるんなら止めてもいいし」



あと、その報告書も手伝ってやるし。

ベルはそう付け足してまた笑った。


この山のような報告書を手伝ってもらえるというのなら、これに乗らない手はない。



「じゃあポッキーゲームやる!」



ベルの方を振り返りながら言うと、ベルは楽しそうに笑っていた。


何気なく目線を泳がした先には、ベルの手に握られた赤いパッケージの箱。


どこまで用意周到なのだろう、この弟は。



「うししっ、折ったら負けな?」

「ししし、負けねぇからな」














そうしてゲーム開始から20分ほどが経ち、ベルが持ってきていたポッキーの数は半分ほど減った。



「……あ」



まだ長さに余裕のあるポッキーが、二人の口の間で無情にもボキリと折れた。



「…………」

「…………ちっ」



かれこれ約20分ほどゲームを続けていたのだが、めでたく二人の唇が結び付くのは5回に一回程度で、大抵のポッキーはこんなふうに折れてしまっていた。



「…また折れたし…案外うまく行かねぇじゃん」

「しししっ、まーたジルの負けだな」



じゃあもう1本。と10数本目にもなるポッキーをつまみ上げるベル。


そのまま端をくわえるかと思いきや、ベルはポッキーをつまんだ体勢のまま固まって何か考え始めた。



「…どーしたんだよ?」

「んー」



ポッキーとジルとを何度か交互に見つめたあと、ベルが口を開いた。



「……なージル」

「あん?」

「ポッキーさぁ……下の口にも食わしてやろっか?」

「………はぁ?」





首を傾げるジルを前に、ベルは何やら意味深に笑って見せた。





「ルールは一緒で、折ったら負けな?」

「ん。…ぜってー負けねー」





次こそは勝つ、と報告書の件はそっちのけでゲームに燃えているジルだったから。

次のポッキーゲームが今までのものとはまるで次元が違うことなど知るよしもなかった。












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