twin・prince

□daymare
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「…日付が変わる前に部屋から出てけよぉ」



その言葉通り、きっちり11時半には部屋から放り出された。


閉め出されたドアを背に、ベルは苦笑混じりの息を吐く。



「…さんみー」



部屋の外、廊下は思った以上に冷え込んでいて、言葉と共に吐いた息は真っ白になって霧散した。


さっきまで二人で温めあってた体温なんかいとも簡単に無くなってしまいそうだ。


二人で飲もうと思って持っていった酒が余ったから、持って帰るのに腕に抱えた酒瓶が服の上からなのにいやに冷たい。


身震いを一つして、ベルは必要最低限の照明に照らされた薄暗い廊下を歩き始めた。



「……?」



ベルは、ふと薄明かりに照らされた自分の肩のあたりに一本のワイヤーが引っかかっていることに気が付いた。


どうしてこんな所に引っかかっているのだろうと不思議に思いながらワイヤーをたぐり寄せると、それはワイヤーではなく一本の長い髪の毛だった。


薄明かりを浴びて月色に光る銀色のそれは、紛れもなく先ほどまでベッドで一緒に寝ていたベッドの主のものだった。



「…王子が呪術とか使えたら、お前のコレまじないに使えちゃうね」



笑って冗談を呟いて、肩に引っかかった髪の毛を払い落とした。


音もなく廊下に落ちた髪の毛と同じ、静かに狂った冬の海みたいなアイツの目はいつだって快楽のその先にあるものしか見てない。


いくら相手を求めたって、向こうからは愛の言葉一つ返ってこない。


それでも王子がお前を求めちゃうのはやっぱり、王子も快楽のその先にあるものしか見えてないから。


だってその一歩手前を知るには、王子とお前じゃ役不足だもんね。


だって俺王子だからさ。


にぃ、と口許を上げて自嘲気味に笑った。



「…ん?」



廊下の途中、ふとベルが足を止めた。


廊下の左側にはベルの部屋へと続くドアが取り付けられている。


口許に浮かべた笑みがすぅっと消えていく。


廊下の上、部屋のドアに背を預けてうずくまる人影は、薄明かりに照らされてきらきら光る柔らかそうな金髪の頭を、立てた膝の上に乗せて小さな寝息を立てていた。


その金髪と、無駄に存在を主張するティアラとを見て取ると、とりあえずメイワクな侵入者ではなかったことに安堵しつつ、ベルは自然にナイフへと伸ばしていた手を引っ込めた。



「ジルかよ…つか何でこんなとこで寝てんの」



起こそうか起こすまいか悩んでいると、もぞ、とその金髪……ジルが身動きした。


起きてるようならさっさと自室に戻れと蹴り飛ばしてやろうと思った矢先、ジルはどうやら寝返りを打っただけのようで、未だに小さな寝息が聞こえてきた。


ため息混じりにベルが頭を掻くと、膝を抱えて座っていたジルの腕の中からひょっこりミンクが顔を出した。



「あり?ミンクじゃん、何してんの?」



いないと思ったらこんなとこにいたのか…と思いつつ廊下にしゃがみ込んで手を差し伸べると、ミンクはこちらに駆け寄ってきた。


ベルにすり寄ってきたミンクは先ほどまでジルの腕の中に居たからか、とても温かかった。


そっとその柔らかい毛並みを撫でてやると、ジルが愛用している甘い石鹸の匂いがふんわりと漂った。


いつからジルと一緒にいたのかは知らないが、匂いが移るくらい密着していたのは確からしい。


それなら自分にもあの煩い隊長の匂いが移っているのかもしれないと思い、ベルは興味本位で腕のあたりを嗅いでみた。


すると、自分が使っているものとは違う香水の匂いがそこにはあった。


そうしているうちにミンクはジルの元へと引き返して、眠りこけているジルの首もとに乗るとその頬をペロリと舐めた。



「んん……」



くすぐったかったのかジルが声を漏らすと、ミンクはさらにペロペロと頬を舐める。

その内ジルが目を覚まし、酒瓶を抱えているベルを見て寝ぼけたように呟いた。



「…遅かったじゃん、ベル」

「あ?待ち合わせの約束とかしてたっけ?」



部屋の鍵穴に鍵を差し込み、ドアを開けながら答えるとジルは黙って首を横に振った。



「…王子の部屋の前で何してたわけ」



立ち上がって伸びをするジルに肩越しにそう訪ねると、ジルは意味深な笑みを浮かべて見せた。



「教えねー。
それはそうと、俺はお客様なんだぜ。
先に部屋に入れるのがお約束だろ?」

「…ふーん。じゃ入れば?」



さっきまでのいきさつでバッチリ目が覚めていたベルは、ドアを開けてジルを部屋に迎え入れた。



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