腐女子高生・Middle&Seasonモノ置き場3

□腐女子高生の花嫁騒動?(渚の場合)
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撮影は、某ホテル
斎と一緒に現れた渚に、スタッフも度肝を抜いた

「クソ恥ずかしいわよ?悪目立ちしてるじゃない」

「いーからいーから」

渚は、通されたドレスだらけの部屋の椅子に斎を下ろした
渚が打ち合わせに行ってしまうと、深い深い溜め息を吐く

なんだって、こんな事に……

斎は溢れ返るドレスの山を眺める

いつか、女の子チームや妹達も、誰かと結ばれていくのだろう
その時は、盛大にお祝いする気だ

しかしその一方で、自分の事はとんと予想も想像もできずにいる
皆が大人になって過ぎていく景色を、ゆっくりと眺めている自分がいて……
例えるなら、過ぎていく電車を見送って行くような感覚だ
そこだけは、リアルに感じる

「着てみる?」

いつの間にいたのか、渚が斎を覗き込んでいた

「いらない
鈴花やナカムーやチーや妹達にも着せたいわ
皆を着せ替え人形にしたいなって、思ってたトコなのよ?」

「そう?
でも、撮影に協力はしてもらうから」

「はい?」

ニッコリ、渚は一見人の良さそうな笑顔を浮かべる
しかし、その裏で、最初から斎を撮影に引っ張り込むつもりだった事に、斎は今更気が付いた

「斎が化けるのが上手いのは知ってるし、学校でも正体がバレない自信はあるでしょ?」

いけしゃあしゃあと言ってのける渚を、キッ、と、射殺/す様に睨む

「渚ちゃん……」

「できるよね?
僕の花嫁になってくれる?」

そっと頬を撫でる手を、斎は叩き落とす

「ふざけろよ……渚ちゃんでも殴るわ」

フツフツ、胸の中から怒りが競り上がり、グッと拳を握る
その手をやんわり握り込んで、渚は斎の前に膝をついた

「始めからお願いしても、斎は引き受けてくれないでしょ?
それに、斎に隣に居てほしいから……」

「……そういう台詞は……」

「できるだけ、演技で撮影したくなかったんだ
消費者のニーズとかも、考えなかったワケじゃないけど、自然に笑い合える相手を考えたら……斎だったんだよ
それに、斎がここにいる時点で、代わりはいない」

ある意味脅しだ

「……よくも、あたしを引っ張り出してヌケヌケと言えるわね」

かりそめでも、結婚に興じろとは、どんな嫌がらせだろう
気分が悪い
斎自身は、結婚という儀式の失敗例と言って良い
大人達の都合で生まれた玩具だ
今でも、いや今だから、斎は都合良く親の顔を立てるのに使われる
何かのパーティーとか、コンサートとか……中にはお見合いもあった

「あたしは、その結婚の成れの果て……
大人達が興じた、ママゴト遊びの残骸な……っ……」

爪が食い込むまで握った手を、渚が指を絡めて解かせた
そのまま、手を握る……恋人繋ぎに……

渚には、斎を慰める言葉は持ち合わせていない
少しの同情や哀れみも、斎が望んでいないのは、彼女の性格や言動から察して余り有る

「でも、僕は斎だから応えてくれると思うんだ
作り物の花嫁でも、雑誌の編集者にも、読者にも……他の関係者や、僕の望みにも
斎なら、応えてくれるって信じてる」

斎の琥珀色の瞳を、渚はじっと見つめた
都合が良いから、仕事に付き合わせる訳じゃない
それだけは確かだ
お互い、奥の奥までは見透かせないけれど……
斎の中に有る「表現者」の部分は揺れていた

「……渚ちゃん……」

静かに、口を開く
微かに、声が強張る

「……今回は、あたしに言葉を使わずに、静止画で愛を語れというの?」

それはなんとも、難易度の高い表現を要する事だろう
渚は、肯定して頷く

一度、斎は瞑目した

一拍後、ゆっくりと目を開くと、それは一人の表現者の瞳をした斎だった

「あたしの名と誇りにかけて、その依頼、引き受けるわ」

そして、斎は立ち上がる

「先ずは、何をしたら良い?」

喧嘩上等、と不敵に笑う斎に、渚は苦笑した
かりそめの花嫁だけど、でも……
自分の蟠りや事情を、度外視して押し込んででも、斎は笑って見せた
それは、一人の表現者としてのプライドと、探究心の現れでもあるらしい

渚は撮影のイメージや演出を、斎に説明した
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