しょーと

□今日もお疲れ様でした。
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無駄に長くなった。




日が暮れる頃、厳しい訓練が終わりふらふらと廊下を歩く。いつもは有無を言わさず連れて行かれる酒場も今日は師匠の用事によって行かなかった。朝行動するよりも遙かに長く感じる廊下を重い足取りで歩く。ようやく部屋に着いた頃にはもうへとへとだった。疲れ切った体をポフリと柔らかいベッドに沈ませる。瞼が重くなれども訓練でかいた汗がべたついているため風呂に入らなければならない。鉛のような手足を無理矢理動かす。よっこらせ、というじじくさい言葉をはいて起き上がったところでがちゃりとドアが開く音がした。

「あれ?アリババ君!!」
「おー、アラジン。お前も終わったのか?」
「うん、今終わったばかりだよ」

てとてとと歩いてきたアラジンも熱魔法云々のせいでそれなりに汚れていたがやはり俺ほどではなかった。ドロドロの俺を見て「アリババ君、なんだかボロボロだねぇ」と言ってきた。失礼な。こちとら師匠の容赦のないありがたーい実戦に答えるので精一杯なのだ。うるせー!!と返せばアラジンはニコニコと笑ってベッドに座った。

「アリババ君はこれからお風呂かい?」
「んー、そのつもりだけど…」
「じゃあ、」

もしよかったら一緒に入らないかい?





カポーン、という間抜けな音が響く大浴場。頭から桶に入れたお湯を盛大にかぶる。それだけで体にこびりついた汗と埃が流れて気持ちよかった。頭をよく洗浄していた頃にアラジンが入ってきた。おじゃまするねアリババ君という言葉にあーだかうーだか判別の着かない声で返す。泡を流し終わったところで「アリババ君アリババ君」と声を掛けられた。横を向けばいつもしている三つ編みをおろしているアラジンが此方をなんだか期待する目で見てきた。三つ編みをしてないアラジンがレアだ。

「アリババ君アリババ君、まだ体は洗ってないかい?」
「?今からたけど…」
「じゃあ僕が背中洗ってもいいかい?」

きらきらとした眼差しで此方を見てきたアラジンに一瞬きょとんとしてしまうがすぐにうなずく。

「いいぜ!!じゃあ流し合いしよう!!」
「わあ!!アリババ君と流し合いっこ!?うれしいなぁ!!」

俺の提案にはねて喜んだアラジン。俺は早速スポンジに石鹸を付けて泡立てる。そのままアラジンの背中側に回り込んでスポンジを背中に当てる。そうして洗い出した。強すぎず弱すぎず、ちょうど良い力加減で洗う。それが気持ちいいのかアラジンは目をつむっている。「お痒い所はありませんかー」なんて言って遊んでいたが、ふとアラジンの背中の小ささに少し驚いていた。こんな小さな背中にいろんな強さとかがあるなんて、とアラジンの強さを思いなおさせる。実力とか、そういう面でももちろんだが
、俺はこいつの言葉に何回も支えられてきたんだと改めて実感した。そうしているうちにあらかた洗い終わったのでお湯を掛けてやった。

「うっし!!おわったぜアラジン」
「わあい!!ありがとうアリババ君!!」

それじゃあ次は僕の番だね!!と意気込んでから俺を座らせて反対の立場に。そうしてアラジンは俺の背中を洗い出した。誰かに洗ってもらうなんて久しぶりのことだ。なんだかそんなことで胸がくすぐったくなる。体も心もぽかぽかしてきた。そんなことを思っていると洗っていたアラジンがふう、といって背中にお湯を掛けた。どうやら終わったらしい。

「はい!!終わったよアリババ君!!」
「さんきゅーアラジン!!」

そうして一通り洗い終わった俺は先に湯船につかった。温かいお湯が訓練の疲れをいやしてくれる。すると突然「アリババくーん!!」という声と共にアラジンが勢いよく飛び込んできた。バッシャーンという水しぶきが上がって顔に盛大に掛かった。「わぷっ」と思わずうめく。

「あぶねーだろアラジン!!」
「えへへーごめんねアリババ君」

冗談めかしに怒っているのが分かっているのか、アラジンは笑いながら謝る。そんなアラジンのこめかみをぐりぐりとしてきゃっきゃと騒いでからふう、と一息ついてゆっくりとつかる。するとアラジンが話しかけてきた。

「ねえ、アリババ君、」
「ん?」
「さっき洗ってて思ったんだけど、アリババ君の背中、すごく傷でいっぱいだったねぇ」
「え?そうか?」

自分で洗った時にはもちろんそんな所は見えないし気にしたこともなかった。師匠の訓練は何回も言っているが厳しいので体に傷を負うことはしょっちゅうあるのでまあ当たり前といえば当たり前なのだが。そしてこちらを見ているアラジンを見てさっきの事を思い出した。

「そういうお前は背中小さいよな。」
「ええ!?小さいかい…?」

「そっか…小さいのか…」と言ってしょんぼりとするアラジン。何故か残念そうだ。そんなアラジンに慌てて「気にすんなって!!」と声をかけた。

「それにお前、背中は小さいけど大きいぜ?」
「?よくわからないよアリババ君」

つまりな、とアラジンに語りかける。

「お前は魔法だってつかえるし、マギだし、強いし、いつだって俺を助けてくれただろ?そんな小さい背中にそんなもん持っててさ、俺いつもすげーって思ってんだ。」

思いのまま話しているとしだいにアラジンが目をうるませる。「アリババ君…!!」と感動しているアラジンに「それにほら、傷だらけの背中よりはマシだろ?」と若干自傷気味になってしまったが言うとアラジンはぱちくりとその大きな目を瞬かせた。

「そうかなぁ」
「へ?」
「僕はアリババ君の背中素敵だと思うよ?」

こちらをまっすぐと見て言ってきたアラジンに思わず飲まれた。こいつの言うことを聞くとなぜか黙ってしまう。喋れない。なんだかだんだんはずかしくなってきてしまう。「何いってんだよー」といって笑った。

「ほら女の子とそー…ゆう事をするときに傷だらけだったらなんかアレだろ?」
「うーん、そうかなぁ?」

俺の言葉に首をかしげてからアラジンはゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「だってその傷ってアリババ君がみんなのために強くなろうと頑張ったっていう証だよ?」

だからさ、と言ったアラジンはこちらを優しい目で見つめる。

「僕はアリババ君の背中、凄く好きだよ」

こんどはこちらか目をうるませる番になってしまった。やっぱりアラジンの言葉とか、存在にいつも支えられてると思い、思わず涙腺が緩む。少しキュンときてしまったのは内緒だ。アラジン…!!アリババ君…!!といってお互い抱き締め合う。そうして笑った。

「アリババ君はいつも頑張ってるもんね!!」
「お前こそ!!」
「じゃあこれからももっともっと頑張って頑張ろう!!」
「おう!!」




今日もお疲れ様でした。


(いつも頑張っている君へ。)

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