しょーと

□共犯者
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犯罪者の前日のお話。



わいわいがやがやとしている酒場。いつもの如く沢山の人が酒を交わしている。兄弟で、親子で、親友で、恋人で。そして、師弟で。今日も今日とて師匠との厳しい訓練を終えてから有無を言わさずズルズルと酒場までつれてこられた。まあ断らない俺も悪いんだけどな。断れないの間違いだけど。だって師匠怖いし強いしその癖今みたいにたまに優しくなるし…と、もう何杯飲んだか忘れてしまった酒のせいでうまく回らない頭がぼんやりと意味不明なことを考える。隣の師匠も同じような状態で二人して意味もなく笑っていた。これが笑い上戸か。

「アリババァ〜お前、ちゃんと飲んでるかぁ〜?」
「やだなぁ師匠ぉ〜さっきからいっぱいのんでるじゃないれすか〜」

上機嫌に絡んできた師匠に回らない呂律ながらも返すとうりうりと頭を撫でられた。どうやらとことん機嫌が良いらしい。そのままアホらしいやり取りをしながらもう一杯、とグラスを傾けた時、突如師匠が口を開いた。

「ところでアリババぁ〜お前、あれか?女とはシたことあんのかぁ?」
「ぶふぅ!?」

思わず飲んでいた酒を吹き出した。「きったねーなぁ大丈夫かぁ?」といいながら背中をバシバシしてくる師匠のお陰でより蒸せた。けほけほと変な所に入ってしまった酒の違和感を咳と共に逃がす。それから半ば涙目の状態で師匠を睨んだ。顔が暑い。笑いながら謝ってくるも師匠は尚話を続けた。どうやらとことん聞きたいらしい。質の悪い人だ。

「で?どうなんだよアリババぁ。あんのか?無いのか?」
「え、や、やだなぁ師匠〜ちょっと飲みすぎですよぉ〜」

笑いながらはぐらかすと師匠は突然真面目な顔をしてきた。なんだなんだと戸惑い狼狽えていたらこれまた突然肩をガシッと掴んできて本能的にひっ、と息を飲んだ。そのまま師匠がこちらを真剣に見つめてきてなんだか、また、顔が暑い。お酒のせいだと何故か自分に言い訳じみた事をしていると痺れを切らした師匠が「アリババ、」と声をかけてきて、師匠はからかっているだけなんだろうけれど、耐えきれない。

「あー!!もう!!ありませんよぉ!!エッチは愚かちゅーもまだしたことありませんー!!!」

半ばヤケクソに、叫ぶように、声高らかに、言った。周りの人々が何だ何だと視線を寄越すがもう知ったこっちゃ無い。自分で言っておいてなんだか空しい気持ちになって呆けている師匠なんか気にもとめずにうわーんと、悲しみ半分恥ずかしさ半分に泣いて机に突っ伏す。しくしくとしていると隣の師匠は何も言わないので余計恥ずかしくて、ならむしろこちらが何か文句を言ってやろうと顔をあげたら前を向いたままのどこか嬉しそうな師匠がいて、え?嬉しそう?そして俺をきっとからかうべく向いた顔は何故かこちらを向いたまま固まった。疑問に思っていたらボソリと「なんつー顔してんだよ」と言われて。師匠はカウンターにお金をおいて俺の手を引いて店を出た。何度か声をかけても反応せずに突き進み、やっと止まったかと思えばそこは師匠の部屋で、え?と声を漏らすもそのまま無理矢理部屋に押し込まれた。

「ちょ、師匠、なに、」

紡ごうとした言葉が発されることは叶わなかった。師匠によって。唇に触れる温もり、目の前に師匠の顔があって、現状を理解する前にぬるりと何かが入ってきて。口内を舐められて思わずくぐもった息が漏れる。それが恥ずかしくてぎゅうっと目を瞑った。何で何でという疑問に頭が占領される一方で襲ってくる変な感覚に体を震わせた、きもちい、と頭の片隅で思う。ようやく解放された頃には俺の息は切れ切れで、体に力が入らずほとんど師匠に支えられる状態だった。

「…お前、なんつー顔してんだよ。」
「は、んぇ…?」

店でも同じような事を言われた気がする。何もできずただただ瞬きを繰り返す俺の額にちゅっとキスが降りてきて、驚いて体を離そうにも後ろは扉で、混乱状態の俺にさらに追い討ちをかけるように師匠が俺の耳元で囁いてきた。耳に熱い吐息がかかってビクリとした。

「そうかぁ、じゃあ何にも知らねぇアリババ君に、教えてやるよ。」

たっぷりとな、と言う師匠に驚いて逃げようとしたところでまた唇を塞がれた。どこか熱に浮かされて回らない頭で、師匠、と呟いた俺の声は確かな甘さを含んでいた。



共犯者

(とりあえず考える事を放棄した俺はそのまま目を閉じた。)

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