しょーと

□痛み、甘さ
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まな板を叩く包丁のリズミカルな音、それをどこか遠くで聞きながら俺はまた自分の役目に集中した。
キッチンでいそいそと何かを作っている白龍を見かけたのがつい30分前の事。料理は王宮の人達が出してくれるのに。そう思ってなにをしているのかと聞けば、どうやら定期的に料理をしないと腕が鈍るから、らしい。相変わらずというかなんというか。そんな白龍を見て俺も手伝う、といったのを白龍は快く引き受けてくれた。
チーシャンにいたときはそりゃあ自炊ができなきゃ生きていけないからそれなりの料理はしていたが当然ながら白龍程の腕ではない。(サガン攻略の船で食べさせてもらった料理の味は忘れられない。)料理を習いたい、そう前から思っていたのでこれはまたとない絶好のチャンスだった。

「白龍ー、終わったぞー」
「あ、ありがとうございます。・・・意外と手際良いんですね。」
「意外とはなんだ意外とは。」

白龍に任された仕事を終えた俺は次の仕事を要求する。すると次は包丁を一本取り出して野菜を切るように言われた。よし来たとそれらを受け取り包丁を構える。随分握っていなかったから少々心配だったが、一度握れば感覚を思い出すのにそれほど時間はかからなかった。トントン、と一定のリズムで刻めば横から「手慣れてますね」という声が聞こえた。

「あぁ、まぁ一応チーシャンに居た頃は自分で作ってたからなー」
「そうだったんですか。だからさっきも早かったんですね。」
「まぁ、お前程じゃねぇけどな。」

白龍にそれとなく誉められて照れてしまう。そうして調子に乗って切るペースを早めてしまえば、思わぬハプニングが起きた。

「っいてっ!!」
「っ!?アリババ殿!?」

左手の位置もよく見ずに無闇に動かしたら人差し指の先を切ってしまったのだ。包丁を置いて指先を見れば小さな切り傷とそこから滲み出ている赤い血が。「あっちゃー」と声を漏らせば白龍も包丁を置いてこちらを向いた。

「大丈夫ですか?」
「あぁ、ちょっと切っただけだし・・・」
「見せてください」

そう言われて右手を差し出せばそっと手をとられ人差し指を見た。白龍の紳士な行動に思わずドキッとしてしまった。そうして数秒俺の傷口とにらめっこをしてーー俺が声をかけようとしたところで、白龍は自分の口に、俺の人差し指を持っていって。

「え、ちょ、白」

ぺろり、と傷口を舐められる。それからその人差し指を口内に持っていった。温かい口内で傷口を舌で舐められる。びくり、と体が跳ねてしまったのは反射的なものだ。

「や・・・め、ん・・・っ!!」

少し強めに傷口を抉られて変な声が出てしまった。指を抜こうにも上手く力がはいらずどうしようもできない。傷口に舌が触れる度に甘い痛みが生じてなんとも言えない気持ちになる。真っ赤になってふるふると耐えていれば最後にちゅっ、と音を立てて吸われてようやく離された。かっと顔が熱くなる。

「な、な、お、おま、お前、」
「え、いえ、姉に昔よくやってもらっていたって、アリババ殿?」





痛み、甘さ


数秒後、キッチンにパーンという大きな音が聞こえたのは、いうまでもない。


結構最後まで黒龍にするかどうか迷った。

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