しょーと

□すみません、幸せなやつで。
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「―うっし、そこまで。」

師匠の一言で俺達は一度動きを止めた。首筋を伝う汗を乱暴に拭ってその場に座り込む。目の前の相棒もへなりと崩れ落ちるように座り込んだ。お互い呼吸が荒い。ちょうど空に上がる太陽が眩しくて目を細めた。

俺達がシンドリアに来てから早数日。俺達にシャルルカンさんが師匠につけられてからは俺達で手合わせをしてお互いを高めあわせる事をされていた。そうしてたまに師匠と稽古をする。まあアリババと稽古をしているときでも血気盛んな師匠がよく割り込んでくるんだが。しかも師匠と稽古をするときはだいたいは一人ずつだがたまに二人同時にかかってこいと言われる時があった。(酷く腹がたったのを覚えている。直ぐに実力の差を身に覚えさせられたが。)しかし何故かアリババの親父さんの宝剣にはまだアモンが移っていないし、俺もまだ眷属器を手に入れる事が出来ていない。決して師匠の教えが悪いわけでは無いのだが。そこには師匠も頭を捻っていた。俺は暑さに唸り片手でパタパタと仰ぐ。

「あっちー…」
「疲れた…」
「お前ら、情けねえなァ。もう少し体力つけろ体力。」

ひょいっと見下ろされながら笑われる。ぐったりとした声を揃えて返事をするとやる気を出させるためかバシバシと背中を叩かれた。痛てぇ。しかし師匠は俺の目線に気付かず「しっかしなぁ」と言いながら頭を掻いた。

「なんでこんだけ稽古つけてんのにいつまでたっても眷属器もアモンも手にはいんねえのかねぇ。」

毎日話題に上がる(?)言葉に俺達は頭を悩ませた。たしかに俺達は死ぬほど稽古をしているし、やはり死ぬほど努力はしている、つもりだ。それなのに何故、ダメなんだろうか。ちらりと自分の武器を見てため息をついた。俺達の長年の付き合いはどうしたと武器に心の中で訪ねども返事はない。はぁ、と重い溜め息をついた。

「…俺達才能無いんでしょうか。」
「いや、二人共筋は良いぜ。ただ…」

そこで師匠は言葉をきってうーん、と考え出した。上手い言葉をさがしているらしい。そうして悩ませながら口を開いた。

「なんつーか、こう、稽古になってないというか…」

そう言われて一瞬頭は疑問符でいっぱいになったが直ぐに理解できた。アリババもわかったらしく「あぁ。」と声を漏らした。

「…多分それ、俺達がお互い先を読みあっちまうせいだと思います。」
「は?」
「えっと、俺とカシムって長い付き合いなんですよ。スラムでも、霧の団でも一緒に戦ってきましたから…」

「だから、お互いの攻撃パターンが読めちゃうんです」と言うアリババの言葉を耳にしながら自分の中で納得がいっていた。確かに今までアリババと稽古をしていた時になんと言うか、手応えを感じなかったのだが、多分これのせいだ。お互いに次の攻撃をよんでしまうから攻撃が当たらない。確かに今まで決着がついたことってあんまりねーな。

「…なんだ、そりゃ。」

すると師匠の声が上から降ってきて、見ればその顔にはあからさまな嫉妬心が見え隠れしていて。「まじかよ」と思うと同時に優越感が込み上げてきた。そのまま調子に乗ってニヤリ、と笑ってから意味ありげに言った。

「まぁ、仕方ないっすよね。それだけ俺達長く一緒に居ますから。」
「……ほお。」

多少の嫌みを込めて言えば師匠の眉がひくりと上がって。

「…おいカシム、立てやごらぁ俺と二人でやるぞ。」


あ、やっべ地雷ふんだ。



すみません、幸せなやつで。


当然のようにのように師匠に絞られた。



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