しょーと

□いつもありがとうございます!!
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「・・・・・・・・・どういう風の吹き回しですか?シン」
「何だジャーファル?王が仕事をしているだけの事だろう?」

今現在、最も有り得ない事が起こっている。


涙目で私のところへ優秀な部下が来たのはついさきほどの話だ。「シンドバッド王が」と言った彼女は大層慌てていたのでまさか何かあったのかと問いただせば震える口で彼女はこう言った。「シンドバッド王が、仕事をしている」と。

「・・・というか俺はどれだけ信用が無いんだ。」
「仕方ないでしょう自業自得です。だいたい何ですか急に。」
「いや?ただ今日は仕事をしたい気分だっただけだ。」

にこりと胡散臭い笑みを浮かべながらしている仕事の量はもう残り僅かで目を見張る。昨日まで左にあった山積みの資料はもう右に綺麗に積んであった。どういう事だこれは。しかしその後何を言っても曖昧に誤魔化したシンに諦めがついてとりあえずその場を去った。確かに王が仕事をするのは当たり前の事だしそれが当然であって、ただシンがやらなさすぎるだけなのだが、まぁしてくれるならそれは有難いので構わないと自室に仕事をするべく歩いていたらそのさきにわちゃわちゃと揉めている見知った姿を見つけた。

「・・・ヤムライハにシャルルカンじゃないですか。何をしているんですか?」
「っ!!じゃ、ジャーファルさん!!」
「き、奇遇ねこんな所で会うなんて!!!!」

何故かギクシャクとしている二人に頭を捻る。笑顔もどことなくひきつっていた。というかここは私の部屋の前なんですが。色々と突っ込みたいところはあるがとにかく退いてもらわないと仕事ができない。

「・・・?よくわかりませんが退いてもらえませんか?部屋に入れないんですが・・・」
「え!!あ、うん、そうだよな」
「ご、ごめんなさいね」

そう言いつつもなかなか退こうとしない二人は目を見合わせながら冷や汗をかいていて、やましい事をしているのは一目瞭然だ。じとりとした視線を向ければ、うぐっと唸って狼狽える二人に質問をしようとしたらシャルルカンが何かに音をあげた。

「あーーっ!!だから俺にはこういうのは向いてねーって言っただろ!!」
「し、知らないわよそんなこと言われたって!!」

突然ギャーギャーと目の前で意味の分からない言いあいをされてポカンとしてしまったが直ぐに青筋がたつのが分かった。それはシャルルカン達も気づいたらしく慌てて謝るーと思いきや意外な名前が飛び出した。

「あーもう!!マスルール頼む!!」
「は?」

何を、と言おうとした時には何故か私はマスルールの腕へと抱かれ・・・て・・・

「すんませんジャーファルさん少し付き合って下さい。」
「ちょ、マスルールなにうわああああああああああ!?」

ぶわっと大きな空気圧がかかったと思ったら空が見えた。先程までいたシャルルカン達はもう見えない。流れる景色に目を回しながら意識がどこかへいかないように必死に繋ぎ止めながらマスルールに半ば叫ぶように言った。

「ちょ、何ですかこれどういうこと、ですか!!」
「・・・・・・・・・シンドリア空中旅行です。」

そんなもの、自国どころか建国に携わってきたのだから必要ない筈、というかその前に色々と意味が分からない。下ろせ下ろせともがいても圧倒的な体格差には勝てず。そもそもマスルールに力で勝とうなんて方が間違っていたのだ。今だヒュンヒュンと流れる景色にこれでは旅行になっていないなんてどうでもいいことを考えながらそろそろ意識が飛んでいきそうな頃、ようやく地面との再会が来た。自身は走っていないのに何故か息が上がってしまいゼェゼェと呼吸を整えながらマスルールに文句を言おうとしたところで無理矢理連れてこられた目の前の部屋に押し込められた。始めに感じたのはふわりと鼻孔をくすぐる香り。そして見えたのはホカホカと湯気を立てている美味しそうな料理とニコニコと笑顔を浮かべるアラジン達。「やあジャーファルおにいさん」と言われても状況が理解できず疑問府を浮かべているとその場にいる全員ーその中にはシャルルカンやシンもいたーが声を揃えてこう言った。

「いつもありがとうございます!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

目を点にしていたら機嫌の良さそうなシンが笑いながら近づいてきた。問いただそうとしてシンの言葉に遮られる。今日の私の質問はどれも解決していない。

「ジャーファル君。今日はなんの日だか分かるかな?」
「は?今日?11月23日・・・。・・・・・・・。」

勤労感謝の日。そう呟けば「大正解」と笑われた。しかしこれで全て合点がいく。シンが珍しく仕事をしていたのも、仕事をしようとした私を引き留めたシャルルカン達の謎の行動も。すべてはこのためだったのか。

「いや〜俺達の分担が仕事をしようとしたジャーファルさんを止める係で。」
「もしも無理だった場合はマスルールに頼んで時間稼ぎをしてもらうって作戦だったのよ。」
「時間稼ぎ?」

何の?と思えば指を指される。その方角を見ればそこには例の美味しそうな料理。するとアラジン達が誇らしげに胸をはって言った。

「これ、僕とモルさんが白龍君に習って作ったんだ!!」
「え!?」
「お口に合うか分かりませんが・・・」

微笑む白龍と相変わらずの無表情のモルジアナを見て思わず顔が綻んだ。慣れない手つきで料理をする二人に教える少年の光景が思いうかべられて温かい気持ちになる。するとアラジンはいまだニコニコ笑いながら「これ、アリババ君が考えたんだよ!!」と自分のことのようにこれまた誇らしげに胸を張っていった。しかしそこで彼の名前が出て驚く。

「アリババ君が?」
「うん!!いつも頑張ってるジャーファルさんにって!!」

それを聞いた瞬間、胸の奥がふわりとよりいっそう温かくなるのがわかった。じわじわと込み上げてきた愛おしさに胸が苦しくなる。彼が、アリババ君が。お礼を言おうと思い彼を探すが、見当たらない。おや、と思いアラジンに聞けば彼は知らないと答えた。

「そういやいねーな。」
「どこいったんだろうアリババ君。」
「・・・まあ、そのうち帰って来るだろう。」

そういわれてしまえば仕方がない。シンに「とりあえず今日は食べて早く自室で休みなさい」と言われたので談笑を交わしながら温かい料理に手をつけた。

しかしアリババは最後まで帰って来なかった。





(・・・結局、来なかった。)

料理を食べて、騒ぎに騒いで、小さな宴会はつい先程終わったが、アリババ君の姿は最後まで見えなかった。彼に、お礼を言いたかったのだが。多少の心残りを抱え着いた自室に足を踏み入れ、扉を閉めたーところで、何かが違う事に気がついた。五感を研ぎ澄ますも、酔うまでしなくとも、シンに飲まされた酒のせいでうまく気配を探れない。そうしていきなり、後ろから抱きつかれた。一瞬驚くも襲ってくる様子もない。そして覚えのある体格と香り。

「・・・・・・アリババ君?」
「あはは。ばれちゃいましたか。」

後ろから探していた声を聞いて素直に嬉しかった。しかし笑い飛ばすも後ろから抱き付いたまま手をはさない彼。不審に思って腕を外そうと触れればビクリと過剰に反応された。不審感はますます増していき、それならばと抱きついてくる腕をついっと撫でれば息をのむ音が聞こえた。それと同時に腕の力が抜ける。その隙を逃さずアリババ君の腕を外して後ろを振り替えればそこにはいつも目にしている格好が見えて。

「・・・アリババ君?」
「あ、違、いや、あのこれはシンドバッドさんが」

どうやら最初は自分もアラジン達と料理を作るつもりだったのだがシンが「ジャーファルの政務の服を直できればきっと喜ぶ」などと言ったらしく、この部屋で待機していたらしい。なるほどシンがあまり気にしていなかったのはこういう事か。わたわたと狼狽えながら必死に説明をしている間にも少し大きい政務の服を羽織っているだけのアリババ君の肌とか鎖骨とかが見えて思わずはしたなくゴクリと喉をならしてしまった。アリババ君には悪いが必死の説明はあまり頭に入ってこない。するとアリババは「えっと」と少し口ごもってからこちらを見上げた。

「ジャーファルさん、いつもありがとうございます。」

上目使いに、ふわりとはにかむように笑って、ぎゅうっと胸が締め付けられた。あぁ、この子はなんて、愛おしいんだ。色んなものに煽られて、極めつけには少し赤らんだ顔でこちらを伺われて、頑張った分自分に返ってくるということはこういう事なんだなとわりと真面目に考えてしまった。「こちらこそ、ありがとうございます」なんて優しく言いながらその体を抱き締めて思わずその唇に噛みついた。



いつもありがとうございます!!


こんなご褒美を貰えるなら頑張るのも悪くない。




勤労感謝の日ネタ。ジャーファルさんいつもお疲れ様!!www

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