しょーと

□優しく微笑む深夜2時
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これのカシム視点。






すぅ、すぅ、と小さな寝息が聞こえてきて見てみれば完全に意識は夢の中に入っていったようで、安らかな寝顔がそこにはあった。思わずふっ、と笑ってしまう。しかしその吐息のような笑みには明らかな甘みが含まれていて自分に苦笑してしまった。柔らかい金髪を撫でるとそれが心地よいのかへにゃりと口許が緩んで、そうしてまた愛おしさが込み上げてきた。

寝付けないアリババと寝床を共にするようになったのはいつからだろうか。

それはとうの昔のようで、最近のようでもあったがはっきりと覚えているのは初めてあのベランダを飛び越えた夜の、向かい側に見えたアリババの、寂しいような、切ないような表情。かとおもえば向かい側にいる俺を見たあとの安心した、泣きそうなそれ。迷子の子供が母親を見つけた時のようなその表情に支配欲が満たされるようになったのはそう遅くは無かった。その見慣れなかった表情をそれ以前に見た機会は、一度だけ。

夏から秋にかわりはじめて風が冷たくなってきた頃。
俺アリババとは帰宅をいつも共にしていた。柄にもなく部活なんかやって、夕方に帰り、そこでたまに呼び出しをくらう。売られた喧嘩を買ったであろう、もう名前も思い出せないような奴だ。そんなときは「悪い、」と一言謝って先に帰っていて言いとは言ってあった。が、アリババは一度たりとも先に帰った事がない。そうして俺が帰ってきた時には「おせーんだよ」なんて校門の前で笑って言うのだ。(こちらは5分で片付けているというのに!!)しかし一回だけ、いつもより少し待たせる時間が短かった時、あいついるかななんて答えの出ている疑問を頭に浮かべながら行ってみれば、何時ものようにつまらなそうに待っているアリババ、はいなくて。薄暗い夕暮れのなか、ひっそりとたたずむそいつの体はやけに小さくて、浮かべる表情にあるのは寂しさと、不安。想像していた表情とはあまりにかけはなれていて、唖然とした。そうして俺を見つけた時の一瞬の表情。

(ーあ、)

先程の負の感情が嘘のように晴れて、あるのは喜びと、安心。それは本当に一瞬で、ごく自然にあの顔に戻って「おせーよバーカ」。あのときばかりはいつもの戯れに返す言葉よりも先に腕が出てしまい、その小さな体を抱き締めてしまった。あれは、無自覚なのだろうか。だとしたら、恐ろしい。あの表情は結局あれ以来見なくなっていて、だからこそベランダの向側にみえたあの表情をみて歓喜に手がふるえてしまったのを覚えている。俺にだけ向けられるであろうあの眼差し。どうしようもない優越感が込み上げてきても、それは仕方がない事だった。

それからというもの、毎晩同じ時間にベランダに出る(来るかどうかもわからないのに、だ。)俺も相重症で、また、俺が側にいないと寝付けないアリババも相当の重症だ。間抜けな寝顔を見つめてまた愛おしさが沸き上がってきて困ってしまう。

アリババも寝付いたし、さてそろそろ帰るかと思って立ち上がろうとすると、くいっと服の裾を引っ張られる感覚。見ればアリババの腕が俺についてきていて、思わず破顔してしまった。胸の奥で甘い炭酸がしゅわしゅわと弾けるような感覚。くすぐったいようで心地よくて、あぁ、本当に困ったものだと思う。

仕方ねぇなあ。今日は、朝まで居てやるか。

わがままで、愛おしい相手への、溢れんばかりの愛。それを逃がすかのようにまたおれはアリババの額に唇をおとした。



優しく微笑む深夜2時
ああ、そういえば。アリババがあの表情を見せたのは夜と、あの一件と、もうひとつだけあった


俺が、死んだ夢を見た朝。









つまり、そういうことです←

アリババ君は原作の出来事を薄々とわかって(覚えて?)いて、カシムが居なくなっちゃうのが本当は凄く凄く怖いってはなし。うん、わかんないね!!!





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