しょーと

□劣情の果てに見えたものは
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「・・・」
「・・・・・、・・・・・・・・」

太陽は南の方角に昇り、今がもう昼だと言うことを知らせている。照らされている日の強さにも関わらず、大きな樹林の根本であるここは涼しかった。生い茂る木の葉が日差しを遮り、その隙間から通る暑い筈の風は冷たくて心地よい。風が目の前の金髪を撫でるとさらりと溢れ落ちたそれが頬にかかった。無意識にその頬に手が延びて、そして金糸を耳にかけてあげると、んんっ、とうめくもののまた安らかな寝息が聞こえてきた。
アリババ殿を見つけたのは本当に偶然だった。立派な木の根本に輝く金色を見つけて、しかし駆け寄りながら声を出そうとして慌てて口をつぐんだ。聞こえる吐息の音に合わせて上下する肩、何時も、何を写してもキラキラと輝くその瞳は閉じられていて、要は、安眠中のアリババ殿に出くわしたのだ。気配を押し殺し、静かに近づいてみればアリババ殿が片手に宝剣を持ったままな事に気がつく。剣の手入れをして、そのまま寝てしまったのだろう。側にしゃがみ込んでも起きないのだから、今や夢の中にとっぷりと浸かっているに違いない。起きないのならと何となく寝顔を見続けた時にはまだ日は南東の方角に向いていたのだから、相当の時間ここに居たに違いない。こんな事をしている暇があったら空いた腹を満たすために昼食を取るでも、アリババ殿が気になるならさっさと起こして一緒に行くでもすれば良いものの、何故かこの安らかな寝顔を崩すのは勿体無く思えた。すると次は口を小さく開いたかと思うとあ、ともう、ともつかない声をだして、それから口を小さく開いて。あどけない顔に本当に自分より年上なのだろうか。なんてどうでも良い事を考えてしまった。だって年のわりには言動も仕草も子供らしく感じてしまうし、なにより顔が

「・・・かし、む」

・・・しかし、そんな考えもアリババ殿の呟いた一言で一気に拡散してしまう。いつのまにかどこか遠くを見ていた瞳を勢い良くそちらに向ければ、その先にある表情を見て息を飲んだ。それは普段の彼と比べるにはあまりにも、切ないものだったのだ。「カシム」。以前聞いたことのある名前。そこでサガン攻略の時に涙を流しながら言っていた「彼」の名前だということに気がつく。詳しい事は知らない。が、あの時の涙から察するにアリババ殿にとって大切な人だと分かった。こんな、切なげに名前を呼ぶほどに。すると何故か胸の奥から嫌な感じがして、首をかしげる。言葉にうまくあらわせられないが、なんだろうか。と、アリババ殿が見動ぎだしたので慌て詰めすぎた距離を離せばアリババ殿が目を開けた。まだぼんやりとしているのか、覚束無い口調で「はくりゅう・・・?」と呼ばれた。

「アリババ殿、起きてますか大丈夫ですか?」
「う、ん、起きてる。」

明らかに寝ぼけているアリババに苦笑いしながらも先程呟かれた名前が気になってしまい、つい、言ってしまった。

「カシムって、誰ですか?」

しかし、言ってからしまったと思った。今までも何回か気になって、何回か聞こうとは思ったが聞かなかった。いや、聞けなかったの間違いだ。なんだか詮索してはいけないような、そんなかんじがしたから。人には言いたくない過去の一つや二つはあるのだから、聞いてはいけないことくらいは分かっていたのに、今回は体が先に出たらしい。慌てて「あの、」と謝罪をしようとしたらアリババ殿はその前に勝手に「あー」と喋り出してしまった。

「カシムはなぁ、凄い奴だったなぁ。」
「・・・は?」
「不器用で、B型で、すぐキレるしドSだし、」

昔話をするように話すアリババ殿は、ただ独り言をいっているようにも見えた。いっている内容はなかなかの侮辱も入っているが。

「でも女にもてて、俺の知らない事知ってて、」

(しかし、そう話しているアリババ殿の言葉一つ一つに暖かい物を感じた。)

「俺様で、でもたまに優しくて」

(そう、それは、)

「頼りになって、かっこ、よくて、ずっと一緒にいるって、言ったのに、」

(ー愛情。)

そこでアリババ殿の声が震えている事に気がついた。ふわふわと意識がまた朦朧としはじめたのか瞳がまた閉じられかけている。

「・・・身勝手だ、身勝手だよ、カシム。」

そういって、アリババ殿は黙り混んだ。みればもう瞳は完全に閉じられていて、どうやらまた眠ってしまったようなのだが、その頬には涙が流れていた。それを見た瞬間に胸に広がるさっきの黒いドロドロとした感情。しかし今の話を聞いて、感じて、わかってしまった。頬に伝う涙を指で拭ぐって、その目尻に唇を落とした。
暖かい午後の日射しの中、俺の心には冷たい風が吹いた。



劣情の果てに見えた物は
紛れも無い愛でした。






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