しょーと

□これを幸せと言わずして何と言う
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ドサリ、と音を立ててベッドへと雪崩れ込んだ。疲れた、という情けない呟きは誰も居ない静寂に良く響く。始めこそは慣れなかったこの無駄に豪華な部屋も、今ではすっかり慣れ親しんでしまう程にはここに居座らせて貰っている。毎日の修行はそれはそれは厳しくて激しい物だからなかなか疲れる。それに加えて最近はここの政務官のジャーファルさんに学問について教えてもらっているから体も頭も良く使う日々が続いているのだ。(学問を教えて貰っている俺をみて吹き出したアリババを殴ったのは言うまでもない。)霧の団でも体は動かしたが頭を使う機会なんて物はそうそうなく、容量オーバーで痛む頭をこめかみを押すことでやり過ごした。眠い、とにかく眠たいのだ。自然と降りる瞼に、こんな中途半端にと思いつつ、まぁいいかとそのまま深い眠りにつこうとした、ところでバアンという大きな音と共に嫌味なくらい元気な声が響いた。

「カッシムー!!一緒の部屋に寝ようぜー!!」

清々しい程の笑みを称えたアリババは、人の(厳密に言えば違うが)部屋に何事もないようにずかずかと入ってきたあげく、ニコニコと笑いながら枕を持つというオプションつきでもう一度口を開いた。

「カシム!!一緒に寝ようぜ!!」
「今まさに寝ようとしてんだろおやすみ」
「一緒にっつってんだろー!!」

アリババはうつ伏せで倒れた状態のまま、また寝ようとする俺の腕をあろうことかそのまま引っ張ってきた。無理な体制で引かれる腕は勿論悲鳴をあげるわけで、「いてえよアホ!!」と言いながら仕方なしに起き上がってそのアホ面を叩けばおうむ返しのように同じ台詞がかえってきた。無理矢理引っ張られた腕を回せばポキンと良い音がする。
そう、コイツは夜になるといつも俺の部屋に来て、毎回のお決まりの台詞を言うのだ。一緒の部屋で寝よう、と。まだ人の声はすると言うものの一応夜なんだ。何回も声を押さえろと忠告するものの聞く耳もたず。三回目にして頭を叩くだけであきらめた。そして尚も腕を引き続けるアリババに引きずられ(自発的ではない、あくまでも無理矢理だ)今夜もまた部屋に入れられてしまう。見れば大きなベッドに小さい青と赤を見つけ、あちらもそれに気づいたのか嬉しそうな顔をするものだからもう帰れなくなってしまう。昔から小さいガキには弱い事は自覚していたし、多分アリババもそれをわかっての事だろう。はぁ、とため息をつけば「まぁまあ」と言われてそのままベッドへと連行された。

「いらっしゃいカシムお兄さん!!嬉しいよ今日も来てくれて!!」
「優しいなあカシムは」
「お前が無理矢理連れてきたんだろうが」

そう一喝するとそれを聞いたアラジンが寂しそうな顔をして嫌だったかい?と聞いてくる物だからたまったもんじゃねえ。頭をかきながら「嫌なわけじゃねーよ」と言えばまた笑顔を輝かせるのだからどうしようもない。諦めてベッドに登ればそれに続いてアリババも登ってきた。四人分の重さを乗せたベッドがギシリと軋んだ音を立てる。こうして小さな談義が始まるのだ。

「今日はヤムさんに炎で自分と同じ形を作る魔法をやらせてもらったんだ!!」
「へえ〜、で、うまくできたのか?」
「うん!!こんなかんじだったよ!!」

そう話していかにも筋肉隆々なポーズをとるものだからアリババが「それ全然お前じゃねーよ!!」と言いながらアラジンの頭をかき混ぜた。初めは小さくじゃれあっていたアリババ達だが、次第にそれはヒートアップしていき、今ではきゃっきゃとベッドの上でほぼ暴れるように戯れるものだからベッドが大きく揺れる。軽く目眩を起こしてから「バカやめろ」と二人同時に頭を叩いた。と、こちらを向いた二人の顔がニヤリ、と口角をあげる。あ、嫌な予感。

「やったねカシムお兄さん!!」
「おらおらお前も道連れだ!!」
「な、ちょ、おい!!」

一気に二人に飛び付かれて反動で倒れ混んでしまう。ぎゅうとしがみついてくる二人を払い落とすことができない辺り、俺はこいつらに甘いんだろう。手を出さない俺に気をよくしたアリババは「ほら、モルジアナも!!」とふざけたことを抜かしてきて焦るも、もう遅い。「わかりました」と言ったモルジアナは下に手を差し込んだと思えば俺に抱きつく二人ごと俺を持ち上げてきた。これは、男としていかがなものなのか。焦って止める俺とは反対にきゃっきゃとはしゃぐ二人をやはり先程払い落とすべきだったと後悔した。

「ばか、おいモルジアナ、下ろせ!!」
「大丈夫です、これくらい何ともありません」
「そういう事を言ってんじゃねーよ!!」
「おおおお!!すげぇ!!」
「うわあい高い高い!!」

そうして当たり前のように廊下まで響いた俺達の声に、ジャーファルさんが叱りに来たのは、まあ当然の事だろう。



これを幸せと言わずして何と言う

でも、そんな日常が酷く心地よいんだ











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