「あれ葉月は?」
「『るちちゃんなら図書館に行くって言ってたよ』」
「そう…」
「『なんで?用あるの?』」
「ちょっとね」
なんてね――るちは僕の彼女。
誰にも言ってない。
だってるちはモテるから。
余計な敵を増やしたくない。
それに球磨川がるちに好意を寄せてることぐらい分かる。
箱庭学園の図書館は独立した図書館みたいに広くて静かだ。
「葉月」
「あ、未造」
「学園内では行橋って呼んでよ」
「いいじゃん、誰もいないよ?」
そう言って笑いかけるるちは本当に僕が好きなんだ。
と、同時に罪悪感に包まれた。
るちは僕の『異常』を知らない。
話して拒絶されるのが、隠してもなにしても分かるから。
本を仕舞って鞄を持つ。
「今日は本屋行こうよ」
「いい本見つけたの?」
「うん!」
ああ、かわいい。
絶対に嫌われたくないと思った僕は相当るちが好きなんだ。
「未造さ、仮面外したら?せっかくかっこいい顔してるのに」
「本当は?」
「…かわいい顔してる」
るちに素顔見せるんじゃなかった。
一度、雨に濡れて上がりこんだ僕の家で思わず外された。
それからるちは僕に素顔でいるべきだとうるさい。
「嫌だよ」
「…ね、キスして」
「え?」
「早く」
「いや、ここ本屋だから」
「……」
「分かったよ」
僕の異常の弱点は相手の本気が伝わってくること――
通路に誰もいないことを確認して僕はるちの唇にキスを落とす。
るちの唇はなぜか甘い。
「えへへ、未造だーいすき」
僕の異常の利点は相手の本気が伝わってくること――
だから僕はるちが好きなんだ。
本気で純粋なるちのこと。
大好きだよ。