夢小説

□嘘つきくんと大嘘つきくん
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「やべー……いてぇよ」
「『おはよーるいちゃん』」
「あー、はよ」
「『…あれえどうしたの?左手首がどうかした?』」
球磨川が俺の左手首に触れた。
途端に激痛が走り、思わず右手で球磨川の手を叩いてしまった。
叩かれた当の本人は妖しく笑って手を引っ込めた。
「あー……わり!」
「『ケガ?』」
「いやちょっと捻っただけ」
嘘だ。
病院に行ってないから本当かは分かんねえけどたぶん、罅が入っているか最悪骨折?
もう痛すぎてわっかんねぇ!
「『ふうん?』」
コイツにバレると非常にマズい。
だってクラス違うからよく分かんないけど−十三組って他人の不幸を喜ぶ集団だろ?
だったらもっと折ろうよ!なんか言われちゃうんじゃないかなって俺もなかなかのビビりなわけよ。
「じゃー俺こっちだから」
「『うん!じゃあね!』」
幸いにも球磨川はなにも言わず、気づかずに去っていった。
安心したのも束の間、問題が発生した。
俺の利き手は左手だ。
つまり今日1日?はシャープペンすら持てないし、飯も満足に食えない。
葉月るい、齢18にして人生で最大の難関に出くわしてしまった。
まあここで不真面目でノートは採らない主義だとか、仲の良い大親友がいるとか、そういう設定があれば楽だったのかもしれない。
実際は友達は数人いるけど、真面目な俺は放課後に奴らとカラオケに行くだとかゲーセンに行くだとかはしない。
…自分で言って悲しくなってきたから止めよ。
「ふわ……」
昼休み、購買で焼きそばパンとメロンパンを買って食べた。
麺が面白いように踊っていた。
ノートは誰かのコピーさせてもらうとして…体育は休むだろ…なんて考えてたら目の前に
「球磨川…?」
「『はい!』」
「へ?」
「『ノート採っておいたよ!』」
俺に?
状況がよく飲みこめず、渡されたノートを素直に受けとると球磨川はにっこり笑った。
そして球磨川は俺にくるりと背を向けて歩いていった。
「『午後からは、ちゃんと授業受けられるよ』」
気がつくと左手首は治っていた。
それから俺は、新しい設定を身につけたのだった。


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