夢小説

□時代を越えて
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「金でしか私は自分を守れない」
そう言ってキッと睨まれた。
俺は困ったように笑ったけど、内心そうだと思った。
彼女は淡色の単色の着物を着て髪は短かく無造作だった。
「でも、俺達が君を守ってあげるから」
ここだけを聞いた人は俺がとんだ歯の浮いた台詞を言う男だと思うだろうけど俺警察だからこう言っても全然ナンパとかじゃないからね。
「……そんなの無理だよ」
「なんで?」
「君には私だけを守るなんて無理でしょ?他の人が危険な時に私が誰かに襲われても守れるって言い切れる?」
確かにそれは無理だ。
と、言うか俺は金を貰ってこの国を守っているわけで…
その中には君も入っているんだけど確かに危険に晒されている全ての人を守れるなんて言えない。
「君は金を払ってでも自分ででも自分の身の安全は保障されてる。でも私は違う」
「俺は自分の身を犠牲にしてるんだよ。皮肉じゃない、君を守って死ぬかもしれない、君を守れず死ぬかもしれない、自分を守れず死ぬかもしれない、国を守れず死ぬかもしれない」
彼女は黙った。
「だから君はいつか死ぬかもしれない。でも俺はいつ死ぬか分からない」
懇願するように言った。
彼女は一瞬だけ目を開いてそのまま地面に崩れ落ちた。
「分かってるよ…それくらい…」
弱々しく言葉を吐く彼女になんだか酷く俺が彼女を責め立てているように感じた。
「安心が欲しかったんだ…こんな時代でこんなちっぽけな私なんかが生きていけるのかなって」
「大丈夫。俺が君を守るから」
しゃがんで彼女の手をとる。
彼女は透明な雫を両目いっぱいに溜めて俺にしがみついた。
こんな時代なんて、随分幾つもの時代を越えてきたように言うけれど、こんな時代でも俺は結構好きなんだ。
上司にいじられて、殺されかけて、その上毎日が毎日楽しいことばかりじゃないけど笑いあえる仲間がいる、この時代に。


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