黒バス短編

□春への扉
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WC初戦。

俺たち桐皇は、負けた。

「諏佐、負けてもーたなぁ」

「…そうだな」

「悔しいなぁ」

「…そうだな」

「ほな、行こか」

「あぁ…」

今吉は、表情を崩すこと無く、俺に話し掛けてきた。

「…今まで、ありがとうな」

最後の、ありがとうの声は

今にも、泣きそうな声だった。

いつかした会話。

『……おまえが泣くところを、一度くらいは見てみたいな』

『あはは、おもろいこと言うなぁ、諏佐は!』

俺はこんな形で今吉の泣くところを見るのか。

そんなの嫌だ。

負けたことへの悲しみと同じくらい、それが辛かった。





春への扉



WC後、俺と今吉は受験勉強に忙しく、今までの生活とかけ離れていった。

けれどまだWCは開催中で。

俺はなんだか勉強に集中が出来ていなかった。

それは今吉も同じだったようで、今吉はたびたび俺の部屋に来てはこれからの部について話していた。

へらへらしてはいるが、きっとまだ未練があるのだろう。

時折さびしそうな顔をする。

俺はそんな今吉を見るのに耐えられなかった。

あいつはこのチームで一番、勝ちにこだわっていたやつだと思う。

『勝てば官軍、負ければ賊軍…』

ああ言っていたほどに、勝利に執着していた。

そんなあいつが、初戦で敗けた。

きっと、俺の悲しみや苦しみの何万倍もの悲しみや苦しみを抱えているだろう。


重い気持ちをひきずりながら、俺は勉強をして気を紛らせようとした。

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