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□それは俺だけのモノ…隼人Ver
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私は今、寝室の姿見の大きな鏡の前で悪戦苦闘していた…
「…こうして…こうやって…
って、あれ?どうだっけ…」
雑誌を見ながら挑戦してみるも、上手くいかずまじまじと雑誌を覗き込んでいると…
「何やってんの?」
「きゃっ!…は、隼人!!」
雑誌に集中しすぎて背後に迫る彼の気配に気付けずいきなり声を掛けられ、体が跳ね上がった拍子に落としてしまった雑誌を隼人が拾い上げる。
「【誰でも簡単にできる浴衣の着付け】?
…何でまたこんな…」
「えっ…と…実は…」
来週のオフの日、高校の時の友達と花火大会に行くことになり、せっかくだからと皆で浴衣を着ることになっていた。
「…へぇ…花火大会。ね」
「あ、あの…隼人?」
そう呟いたまま黙り込んでしまった隼人を覗き込むと腕を掴まれる。
「そんな話、聞いてねーし」
「えっと…話すタイミングが無くて…
今日話そうと思ってたんだけど…」
不機嫌な表情と声色に少し戸惑いながらそう話すも、隼人の表情は変わらなくて…
「別に私服でも良いんじゃね?」
「そ、そうかも知れないけど…でも、約束しちゃったし…」
この時期、仕事で浴衣を着る機会があるとはいえ、プライベートで着ることは殆どなく、皆で着るならと新しい浴衣を購入していた。
「浴衣なんか着て誰か見せたいヤツでもいんのかよ」
「見せたい人って…
一緒に行くのは女の子ばかりだよ?」
段々と不機嫌さを増していく隼人に困惑していると…
「…んで……」
「え?」
ボソリと呟いた隼人の言葉が聞き取れず聞き返してみると、『何でもねーよ』とそっぽを向かれてしまう。
「でも…気になるよ…」
何か大事なことを言われたような気がして隼人にもう一度訊ねてみた。
「…〜〜だからっ!
その日は俺もオフだって言ったんだよ!!」
そう声を荒らげながら顔を真っ赤にしている隼人。
そんな隼人を見て、彼は花火大会に一緒に行くつもりでいてくれたんだと気づいた。
「それならそうって言ってくれたら良かったのに…」
「…オフになるって今日聞いたんだよ」
相変わらず顔を背けながら話しているけれど、耳まで赤く染まっている隼人を見ると、ついかわいいなと思ってしまう。
「じゃあ…約束ダメになったって友達に連絡しておくね!」
「……いいのか?」
私の言葉に驚いたように訊ねた隼人に、『行ってもいいの?』と聞き返してみる。
「…お前が俺と行きたいって言うなら、行ってやっても良いけどな!」
いつもの俺様発言をしているけど、そう話す隼人はとても嬉しそうな顔をしていた。
「うん!隼人と行きたい!」
そんな隼人にそうおねだりすると、仕方ねーなと笑ってくれた。
「よしっ!じゃあちゃんと浴衣着れるように練習しなきゃ!」
「は?」
隼人と出掛けるならちゃんと着こなしたい。
そう思って気合いを入れ直すと、再び不機嫌な声を上げる。
「え?」
「私服で良いって言っただろ」
「だって…せっかく買ったのに…」
確かに私服で良いとそう言ったけど、それでも着たいなと思っていると…
「仕事でもねーのになんで他のヤツらにお前の浴衣姿を見せなきゃいけねんだよ!」
「隼人…」
それは俺だけのモンだろ。
なんて、そんな隼人らしい理由に頬が緩んでいくのがわかる。
「な、何がおかしいんだよ!」
「ふふっううん。何も!
じゃあ、花火見に行く服、隼人が選んでくれる?」
「ああ。明日午前中で撮影終わるから、連絡する」
久しぶりのデートに嬉しくて早くも気持ちは明日へと飛んでいく。
「それより……お前、いつまでそんな格好でいるんだ?」
「え?」
言われて見下ろした自分の姿は、着物用の肌着に浴衣を羽織っただけの格好で……
「きゃああああ!」
慌て浴衣の前を合わせ、そんな私を見て声を上げて笑う隼人を見上げる。
私の視線に気付いた隼人は、ポンポンと私の頭を叩く。
「せっかくそこまで着たなら、今すぐ着て見せろよ」
「今?」
「ああ。今度の花火大会には着ないんだったら、今着て俺だけに見せろよ。」
「…もう。仕方ないな〜
じゃあ着替えるから向こうで待っててくれる?」
隼人の言葉に呆れたように答えると、早くしろよなんて言いながら寝室から出ていった。
そんな隼人の後ろ姿を見送り、再び着付け雑誌とにらめっこを始めるのだった……
end.
→あとがき