過去拍手集

□もっとかまって
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 彼女は悩んでいた。
 目の前、いや正確には目の上数センチに目的のファイルがあるのに手が届かない。
(もっと高い踏み台ってあったかしら?)
 あったとしてもたかが数センチのために今使用している踏み台代わりの丸椅子を持ち出して交換して…という手間は踏みたくない、と彼女は結論付けた。
(なんとか届かないかな…)
 手を思い切り伸ばし、つま先立ちで目当てのファイルにまず指でもひっかけようと試みた。
 
 その時だ。伸ばした指が瞬間的に下がる。
「あっ!」
 丸椅子の端に寄りすぎたのか、足元のバランスが崩れたのだ。
 反射的に目を閉じ、痛みと衝撃を覚悟した。
 が、それはやってこなかった。
「危ねーな、なにやってんだよ。」
 ガラン、と丸椅子が倒れた音と一緒に聞きなれた声が耳に届いた。
「あれ?ジェット?」
 気がつけば自分の両足は地に着き、両肩をジェットに支えられている。
「これか?」
 そういうと彼は丸椅子をもどし、ちょっと足をかけて易々とファイルを手にする。
「あ、うん。ありがとう、ジェット!」
「これ、何に使うんだ。」
「そろそろ定期健診でしょ。メンテナンスの記録を見ておこうと思って。」
 使い終わったら戻しておくね、と言いながら彼女は丸椅子を片付けようとする。
「ちゃんと俺に言えよ。」
「え?」
「戻す時だよ。また落っこちるだろ。」
 ジェットの言う意味を理解したらしい彼女はにっこりと笑い、頷いた。

―数分後のリビング―
「『俺に言え』ねえ。」
「なんだよ、ハインリヒ。居たんならお前さんが手貸してやりゃよかっただろ。」
「こう見えても俺は場の雰囲気を読むんでな。ま、お前がそう言うならファイルを戻す時に手伝ってやってもいいが?」
「うるせーな!俺がやるって言ったんだから俺がやるんだよ!」



*タイトルはお題配布サイト≪プレゼント≫様のやきもちの盛り合わせよりいただきました。

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