過去拍手集
□Stand by me
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「ねえジェット、この前の調査の件だけど…」
資料片手に個室へ入ったフランソワーズは一瞬、入るべき部屋を間違えたかと錯覚する。
日ごろの彼の趣味とはかけ離れたその音楽のせいであった。
「何だよ?」
そんな彼女を怪訝そうに見るジェットの手にはその音楽のジャケットがあった。
「これ…”Stand by me”よね?これ。ジェットがこういうの聞くなんて珍しいじゃない。」
いわゆるノリのいい、ロックの類を好む彼のイメージからは一歩離れたような、少なくともフランソワーズにとっては意外な光景だった。
「なんで持ってるかもよくわかんねーんだけどな。あったからちょっとかけてみたんだよ。」
欲しかったら持ってっていいぜ、とジェットはフランソワーズにジャケットを渡す。
そのジャケットに視線を落とし、耳は室内に流れるメロディーに傾ける。
「私たちって幸せね。」
「は?」
唐突に呟かれたフランソワーズの言葉に今度はジェットが怪訝そうに彼女を見る。
「だって夜になって暗くなっても空が落ちてきても山が崩れても、怖くないし泣かなくていいんだもの。」
「”Just as long as you stand by me,” っていう制限付きだぜ?」
―Just as long as you stand by me−君が傍にいてくれる限り。
少しばかり得意げに上げ足を取ったつもりのジェットにも動じることなくフランソワーズは笑ってみせる。
「いるじゃない。何があっても”Stand by me”でいてくれる人。」
あなたにも私にもね、とフランソワーズは付け加える。
「…そうだな。」
心に浮かぶのは一人。愛しい彼女の笑顔。
「はい、これ。せっかくだから一緒に聞いたらいいじゃない。」
その後ででも貸してもらうわ、とフランソワーズはジャケットをジェットに戻した。
「それで、この間の件だけど…」
手にした資料を差し出し、フランソワーズは本来の用件を話し始めた。
正義のための戦い、それがどんなに孤独で報われるかどうかがわからなくても。
大切な人が“Stand by me”でいてくれるなら、かまわない。だから、
Whenever you're in trouble won't you stand by me…