白夜叉の傍観

□キミ達を護る
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【09.キミ達を護る】
富松 side





先生方の指示によって、一年から三年までの生徒が校庭の端に集められた。

授業中に突然集まる様に伝令された所為で、不安そうにしている者、どこかわくわくしている者と、少し騒がしい。


けど俺は、何故下級生がこんな校庭の端の、おまけに人目の付かない場所に集められたのか。…その理由を知っている。


それは俺だけじゃない。三年全員知っている事だ。



「…作兵衛」



思考を回らませていると突然背後から名を呼ばれる。ハっと我に返って背後を振り向けば、何時ものやる気ゼロの顔はどうしたのか。

真剣な顔付きの三之助が視界に入る。
コイツがこんな真面目な顔すんのも珍しい。



「何だ、三之助。そんな真剣な顔しても縄は解いてやらねぇぞ」


「違うよ。嫌まぁ、解いては欲しいけど…」



三之助の腰に巻いた縄の手綱を持つ右手を持ち上げて言えば、三之助は首を振った。
あ?じゃぁ、なんだっていうんだ…。



「三之助は“昨日の事”を言いたいんだよ、作兵衛」



またも背後から名を呼ばれ、視線を三之助から背後へと向ける。すると其処には何時もの笑みを浮かべる左門がいた。


…おい、お前俺の横に居たよな。何で俺から離れてんだよ!



「…で、お前が言いたかったのって、左門の言った通り“昨日の事”なのか?」



三之助同様左門の腰にも巻いた縄の手綱を手繰り寄せながら、三之助に言葉を発する。



「あぁ…」とだけ返した三之助に、俺は昨日の…孫兵の言葉を思い返した。







空から突然落ちてきた謎の女。その女を上級生は“天女様”と呼び、忍者の三禁を破って盲目的に恋をしている。

嫌…恋っていう甘い響きじゃない。見ていて不快に感じる…。俺ら三年は兎も角、一年から見ても女の術だって判る。


あの女が何をしたいかなんて判らない。けれどコレだけはハッキリと判った。

女をこのままにすれば、何時かこの学園は敵に攻められる。授業も鍛錬もしていない上級生がこの学園を…下級生を護るとは思えない。

応戦はするかもしれない。只それは“天女を護る”というものだ。
…鍛錬もしていない先輩方がプロ忍相手に戦えるか判らねぇけど。



正気を失った上級生が居ない今、下級生を護れるのは俺達三年。
だから話し合った。その結果全員一致で“天女を暗殺する”事になった。


それが突然、昨日の夜無しになったのだ。

空き部屋に集められた三年を前に


「天女を殺す予定だったけど…やはり辞めよう」


と、孫兵は言った。

勿論反対する奴は多かった。「見逃してどうする」だとか「あんな女に慈悲なんて無用だ」とか…「殺す事に怖くなったのか」って…。


今まで黙って聞いていた俺だったけど、最後の言葉は頭にきた。殺す事に怖くなった?
じゃぁ、聞くが、殺す事に恐怖を覚えない奴なんて居るのか?


それに孫兵が只殺す事に恐怖を覚えただけで、この提案を無しにしたとは思えない。

何故ならこの提案、孫兵から言い出したからだ。無表情に近いその顔が怒りに満ちていたのは記憶に新しい…。

きっと他に理由があるに違いねぇ。




だから余計腹が立った。孫兵の考えも想いも聞かねぇで言ったのが。
それは俺だけじゃない。左門も三之助も、藤内も、優しい数馬も。

俺達はほぼ同じタイミングで勢いよくその場を立った。



「おい、オメェら!!」



少しは話しを聞け、そう続け様とすると、孫兵に止められた。
何でだという意味を込めて孫兵に視線をやると、静かに首を振られた。


それがどういう意味なのかは判らなかったが、自分で全て話す、と受け取っていいのだろうか…。



「理由、なんだが…実は夕時、ある人にお逢いしたんだ。その方はこの学園で僕が一番信頼して尊敬している。だから隠し事はしたくなかった…。皆には悪いけど、その方に“天女暗殺”を言った。

そしたらその人は、優しく…仰って下さった…。
その手を汚す事はないと…君達はまだ、護られる側なんだ…と。今は只、上に護られてていい存在、そんな君達に、大きな任は背負わせられない…。

コレを仰ってくれたのは六年は組の心綺凛桜さんだ。しかも最後に、
“この任は自分に背負わせてくれないか”とも仰ってくれた。
“先輩”である自分が、“後輩”の君達を、必ず護るから…と。

先輩であるあの人を、面識もないクセに先輩方から云われたからと危険だ、バケモノだと言っている僕らに。凛桜さん…嫌、凛桜先輩は護ると云った。

だから僕は、凛桜先輩を信じて“護られる”事にしようと思う。あの人が“手を汚していけない”と仰ってくれたから、手を汚すのも辞める」



普段は見せない孫兵の真剣な姿にか、その意志の強さにか。
野次を飛ばしていた奴らは口を閉じていた。







孫兵の口にした内容に驚いたが、一番驚いたのはこの学園で唯一嫌われ蔑まれている人が言ったという事だ。


嫌…それもあるが、まさか孫兵が心綺“さん”と交流があったなんて…。
三年の中であの人と交流があるのは“俺達”だけだと思ったから―…。



再び思考を回らませていると、何時の間にか山田先生が列の前に立っていた。

それに急いで左門と三之助を俺の前後に並ばせて姿勢を正した。



「あー…突然集めた理由だが、今この学園に起きている騒動が原因だ。その件について話す」



山田先生が一歩後退した時、その場所に白と深緑、群青が舞い降りた。

嫌、深緑の忍装束を着た白い髪の六年と今まで天女の隣にいた群青の五年…。



「やぁ、突然呼び出して悪いね。俺は六年は組火薬委員会委員長の心綺凛桜だ」


「……、」



音も気配もなく、その場に降り立ったその姿に流石としか言い様がねぇ…。
けど、今は時と場合が悪いと言うのか…眼の前の“上級生”に、周りの警戒心が膨れ上がった。



『そんな警戒しないでおくれ…って言うのは、お門違いだね。小娘に現を抜かす上級生が君達にどんな扱いをしたのかは十分承知している…。けど、どうしても君達に伝えたい事があるから、少しばかり時間をくれないだろうか?

まぁ、俺から君達に話す前に、この子から先に…』



多くの警戒心に苦笑しながら心綺さんはバツが悪そうに顔を歪めていた群青の先輩…尾浜勘右衛門先輩の背を押した。


一、二歩前に進んだ尾浜先輩は一度心綺さんに視線を向けた後、深呼吸をし、俺達下級生に勢い良く頭を下げた。



「皆ごめん!皆を天女から護ってあげられなくてッ!上級生が居ない事に皆を不安にさせて…悲しませて…ッ!!いい訳に聞こえるかもしれないけど、俺…天女と一緒にいたら上級生を助ける術が判るかもって…思って…っ、でも、それが違う事に気付いて…、今更かもしれないけど、これからはちゃんと君達を護る…ッ」



しーん…と静まる校庭。

そんな中、尾浜先輩の名を呼びながら列から二つ、小さな水色が駆け出し、尾浜先輩の腹に抱き着いた。


…ありゃぁ、学級委員の一年の庄左衛門と彦四郎だな。


この後の展開がなんとなく想像出来、後ろを振り向いた左門と、何故か前に移動していた三之助と密かに笑いあった。



尾浜先輩の考えはなんとなく理解できる。
俺も同じ立場だったら、天女側に態と付いているだろうし。

傍で後輩を護る事の出来ない歯がゆさに、悲しい想いをさせている事に。多分、尾浜先輩は相当苦しんだ筈だ。


それが判ったからか、この場にいる者で尾浜先輩への警戒心はなくなっていた。
只、残るのは…。



『…俺からの話しなんだけど、先ずは、この子の言っている事は本当だよ。誰よりも君達を護ろうとしていた。

…で、俺が伝えたいのは二つ。
一つ、俺とこの子は小娘を好きになる事はない。俺が信用されていない事は知ってる…だけど、この子は君達の先輩だろ?なら、信用し頼ってあげて欲しい。俺も出来る事ならやるから。

二つ、小娘は…俺が何とかする。君達の大切な先輩も、必ず元に戻す。だから今は…

君達の前に“先輩”として居る事を許してくれないだろうか…?』



そう口にした心綺さんの言葉に、優しい微笑みに。

少なからず、この場にはもう。心綺さんに対して前の様な“恐怖”はなくなっていた。





心綺さん…貴方はやっぱ優しい人だと思います。
食満先輩は貴方の事、非道だバケモノだと言って危険視していますが、俺はそうは思えません。


だって、あの時の…初めてみた貴方の微笑みや体温。俺は今だって鮮明に覚えてます―…。










護る




(俺達を護ると云うのなら、)

(俺は貴方の-笑顔-を護ります)





*********
〈後書き〉

作兵衛の口調判らない…。


因みに色文字ですが、学年を表してます。

キ→水色(一年)
ミ→青色(二年)
達→若草(三年)
護る→深緑(六年)


色とか見れねぇーよ!な方は、
PC表示というボタンを押して頂くと見れると思います^^




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