白夜叉の傍観

□小さな箱庭
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【01.小さな箱庭】





穏やかに流れる白い雲。

耳をすませば聴こえる動物の鳴き声。風に揺られ音をたてる植物。


直ぐ下からは幼い数人の子供達の楽し気な聲。離れた所からは幾つかの怒声と爆発音が。



…嗚呼、今日も賑やかな事…。


自然と緩む口端に、俺はくつくつと笑った。

この俺が此処まで依存してしまうなんて…人の子とは恐ろしいモノだ。


突然笑いだした俺を不思議に思ったのか、膝の上に乗っている白猫が俺を見上げる。

にゃぁ、と鳴くはずのその口からは人語が発せられる。
まぁ、驚くことはない。何しろこの白猫、俺と同じ“神”なのだ。




《…お前は本当に“此処”を愛しているな…》


『分かりきった事を聞くね、お前は…』



愛していなかったらこの様な所、人に化けてまで居ないよ。

毛並みのいいその背を撫でながら、俺はそう口にする。
すると白猫はすぅ…と立ち上がった。


何をするのかと様子を伺う俺に、白猫は金色の瞳を細めるとしなやかな前足を片方伸ばし、俺の頬へと触れた。


ふにふにとした柔らかな肉球。その感触を堪能しながら、俺は白猫の金色の瞳を真っ直ぐに見詰めた。



《お前は何故(ナニユエ)嫌われてまで人の子の隣にいるのだ?》



小さな口から出た真剣な声色。毎度毎度同じ事を尋ねるね、君は。飽き性のクセに、暇さへあれば白猫の姿で現れて。



《神に愛など要らぬ。それは戯れ事に過ぎぬと、知っている筈。

…しかし、それでもお前が“愛”を望むのなら――》


『シキ、』



白猫…シキの言葉が最後まで言い終わる前に、俺が強制的に終わらせる。

コレは何時もの事だから、彼も大人しく口を噤んだ。
そんな彼に、微笑む。



『俺はね、あの子等に好かれ様とは思っていない。只、俺が近くで見たいだけだ。彼らの日常を…短い幸せな一時を…。


それにね、シキ。俺は――…』




嫌われるのなんて、慣れっこだよ。



俺の言葉に、シキは悲し気に瞳を細めた―…。










小さな箱庭




(それは嫌われ者の神様が愛した)

(ちいさな、ちいさな世界)














…妬いてしまうよ、凛桜…。



その呟きは己の心を切なく締め上げた







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