白夜叉の傍観

□部外者
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【02.部外者】







1週間くらいの長い忍務を終え、俺は心身共に疲れ果てた状態で学園の門を潜った。

あぁ、早く愛らしいあの子達を見たいなぁ…。元気に走り回る姿や穴掘り小僧を追いかけるアヒル君とか。


あれは見ていて愉快だ。

最終的にはS法委員長の背に隠れる穴掘り小僧と、その子のドンの委員長に首を締められるアヒル君なんて。


屋根の上から見るその光景は、俺の空っぽの胸を満たしてくれる。

まるで我が子を見守る母親の様な心境だが、強ち間違いではないと思う。


何故なら、この世界を作り上げた神々のうちの一柱が俺だからな。


この世界に生きている生命は皆、我が子同然だ。

とは言っても、俺が我が子の様に思えるのはこの忍術学園の子等だけ。
勿論、教職員もだ。



「あ、心綺くん!おかえり、怪我はない?」



門の付近を掃いていた小松田さんが俺に気付き、大型犬の様に走り寄ってくる。

ほら、可愛い。間延びした優しい聲が俺の疲れた心を少し癒してくれる。



『ただいま、小松田さん。怪我はないですよ、ご心配有難う御座います』


「そっか、ならよかっ…あだッ!?」



小松田さんが急に悲鳴(?)をあげ、背後を振り向いた。
そこには小松田さんの腰に抱きついている小さな子。

「ど、どうしたのー?!」なんて驚いている小松田さん。


まぁ、背を向けていた小松田さんには分からなかった様だが、見知った子が全速力で走り寄って来たのだ。


速度を止めずに眼の前の小松田さんに突撃したから、腰にモロに衝撃が来たのだろう。


いきなりの事にオロオロする小松田さんに可愛いと思う反面、流石に可哀想かなぁ…なんて良心が痛む。



『どうしたんだ?伊助…』



見知ったその子は俺の所属する火薬委員会の後輩、二郭伊助だった。

数回しか話した事がないのだが…。
俺に反応してくれるだろうか。



「心綺、凛桜…せんぱ…っ」


『い、いすけ…?、どうし――ッ!!』



伊助の名を優しく呼べば、顔を上げてくれた。しかし、その表情は何時もの笑みはなく…

瞳いっぱいに涙を溜めていた。


俺に気付いた伊助は俺の名を呼ぶと、堪えていた涙がポロポロと溢れ出てしまった。

えっ、…どうしよう…俺、子供のあやし方なんて知らないんだけど…っ



小松田さん以上にオロオロする俺に、伊助は「せんぱぁぁい!」なんて叫びながら俺の腹に抱きついてきた。


腹に回る細い腕に、忍装束を固く掴む小さな手。
せんぱい、せんぱ…っ、と嗚咽混じりに何度も呼ばれる。



嗚呼、可愛い…。小さな子とはこんなに暖かいのか。
いや、違う違う。そんな事を考えているバヤイではない。


俺は恐る恐る頭に手を置こうとした時―…





「あれぇ、あなたは…?」



媚びた様な話し方。

鼻につく酷く甘ったるい臭い。微かに香るなら良い匂いかもしれないが、香りが強すぎる。


視線を伊助から声のした方へと向けると…見た事のない娘が立っていた。

誰だ、コイツ。見るからに隙だらけだ。くノ一ではないのは歴然。


警戒する俺に気付いているのかいないのか、嫌…気付いていないな。
見るからに鈍そうだ。



白髪の俺が珍しいのか、俺を見詰めたまま微動だにしない娘。しかし、腹に抱き着いている伊助に気付くと、娘は顔を醜く歪めた。


しかし、それは一瞬で。多分目の前で見ていた俺しか気付いていないだろう。

歪んだ顔からにっこりと、可愛く笑む娘。
それがどうも癪に障るのは何故だろうか…。



「伊助くーん」


「……ッ!!」



娘に名を呼ばれた伊助はこれでもかって程に震えた。
…震えた?

伊助の変化に疑問を抱き視線を伊助に移すが、顔を上げなかった。否、上げたくない、の間違いかもしれない。


腹に回る腕に一層力が篭もり、額を腹に押し付けられる。

傍から見ても判る。完全な拒否反応。



「ごめんね、伊助くん…わたしぃ、別に…君から取り上げるつもりじゃなかったの…」



何を言っているのか…この娘は。

さも自分が被害者だとでも言いたげなその表情が、その声が。
俺の胸をざわつかせた。

可哀想…なんて、慈悲深い感情じゃない。
これは、そう……殺意だ。この俺が逢って一刻もしない娘相手に。


頭の中は冷静なのに…。自分のモノではない様に俺の身体は娘を拒否し続けている。
何故か…。考えるだけ無駄かも知れない。




一歩踏み出した娘。小さく悲鳴を上げた伊助。
俺は伊助から娘を遠ざけようと後退するため、一歩下がった瞬間――…



「「「天女様!!」」」



娘の隣に群青色が降り立った。










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