白夜叉の傍観

□天女か白夜叉か
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「天女様、今日もお美しかったなぁ」


「ふふ、当たり前じゃないか八。なんたって天女様なんだから」


「それに今日は天女様と一緒に町に買い物」


「私達で天女様を独占出来る数少ない日だ」



あの女の話題をしながらあの女が居るであろう食堂を目指す。

皆にバレないように、俺もあの女を「美しい」と褒めて。あの臭いに吐き気がしそうになるのを堪えて、笑みを浮かべて。


三郎に直ぐ見破らてしまいそうだけど、今はまったく気付かない。
あの女の事で頭がいっぱいだからね。

これで気付けたら流石三郎だって思ったんだけど、予想は外れた。
まぁ、気付かれても困るんだけどさ…。




俺はあの後、あの女の術にかかった様に振舞っている。本心は殺意と怒りでいっぱいなんだけど…。

何故そうしているのかと訊かれれば、あの女の近くにいれば兵助達を元に戻す糸口が見つかるかもしれないと思ったからだ。


それにあの女を良く思っていない下級生に、兵助達天女側が…考えたくはないけど、何かしようものなら直ぐに対処が出来るから。


敵を欺くのは慣れてる。それでも友を、尊敬する先輩を騙すのは良心が痛むけど…彼らの為と思う事にする。

後輩の庄ちゃんと彦ちゃん、それに下級生を騙して寂しい想いをさせるのは…流石に精神的にきたけど。


今は堪えるしかない。今この学園で、小さな彼らを護れるのは俺しかいないんだから―…。


再度そう決意する俺に、事件は起きた。




食堂の入口に着けば中に多数の気配を感じる。それも一年全員のとあの女の。

それに嫌な予感がしつつ、首を傾げる兵助達と共に食堂内に入る。


まぁ、それからは俺の恐れていた事が起きてしまった。

我慢の限界が来てしまったのか、一番幼い一年全員があの女に直談判したんだ。
「先輩達を返して」って…。「変な術で皆を困らせないで」って…。


悲痛な幼い彼らの願いを、あの女は笑顔で断り、更に残酷な事を彼らに言ったんだ。

俺が兵助から聞いたあの話しを。夢を胸に、覚悟を決めて門を潜ったまだまだ小さなたまご達に…。


兵助に事の事情を話す伊助の姿に、泣きそうな一年の姿に。俺は怒りを通り越して泣きそうになった。



「なにがっ…なにが天女様だよッ!天女様なら、僕達から大切なモノを取り上げないでよ!!僕達の努力を、想いを…否定しないでよっ!!
此処から…僕達の大切な場所から出て行ってよぉッッ!!」



伊助…嫌、此処にいる一年の心からの叫びに…。


けれどその涙も、兵助の言葉に、八や三郎、雷蔵の反応に。絶望から涙を流す事が出来なかった―…。



「伊助っ!!」



滅多に聞かない兵助の怒声。一年は初めて聞くだろう…特に委員会の後輩の伊助は、ここまで怒った兵助は初めての筈だ。


ゆっくりと此方を振り向いた一年達に、俺は「見るな!」と叫び、駆け寄りたかった。
けれどそれが出来なかったのは、後輩に殺気を出す友に…。

変わり果てた友の後ろ姿に、絶望していたからだろう…。


敵に向けていた眼で後輩を見、向けるべきではない殺気を出して…。


余りの恐怖に食堂を出て行った伊助。それを何故か追っていった女。そしてそれを追う兵助達。


伊助がもし、彼らに捕まったら何をされるか判らない。
俺も急いでその後を負った。






そして見付けたのだ。伊助が抱きついている相手、六年最後の一人。兵助の直属の先輩。

深緑の忍装束の上を流れる白髪の髪に紅い瞳…。


火薬委員会委員長、心綺凛桜先輩…。
忍術学園の嫌われ者、けれどこの学園の生徒の中で“最強の人”…。


こんな人が天女側になったら…と嫌な想像に冷や汗を流すけど、今回はその予想は外れた。


あの女と関わって変化がないか観察していて判った事。
それはあの女に対しての“嫌悪感”と“怒り”だった。




だからもしかしたら、と思いあの男の後を負った。
あの女をどうにかしてくれるんじゃないか…って。


普段の俺ならこの男にだけは頼りたくはないと拒否するんだけど、この時は一、二年を前に涙したこの男に。その言葉に。

少しだけ、頼ろうかなって…思った。
精神的にきていたってのも、あるかもしれないけど…。


人に頼るしかないのかって、自分自身に苛立つ。









けど、一、二年の様には素直になれない。
だから自分から言う事が出来ないでいた。

――…今更この人に頭を下げる事なんて、俺には出来ないから…。


密かに拳を固く握った俺に、男は困った様に笑みを浮かべてこう云ったんだ。


『俺に手を貸してはくれないか?』


って。

なんでアンタがそんな事を云うんだって口にしようとしたけど、その前に男が口を開いた。



『俺だけでは後輩を護る事は出来ないし、信用もされていない。あの子達にとって俺は、“恐怖”の対象だ。
だから君は、あの子達を護っておくれ。それ以外は全て、俺がするから…』



夕日に照らされて微笑むその姿に、俺は唇を噛み締めた…。


何故かその姿が、儚気に見えたからだ。
嫌いだと、不快感を抱いていたこの男に対して…。










天女白夜叉

何方かと訊かれたならば、朱く染まる白を選ぶ




(そう言えば先輩)((んー?))
(学園長が呼んでましたよ)((あ、報告するの忘れてた…))




*********
〈後書き〉

勘ちゃんの口調が判らない…。
けど、勘ちゃんは怒ったら口調が荒くなりそうなイメージ^^




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