白夜叉の傍観

□手をひく貴方
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【10.手をひく貴方】
富松 side







俺が二年の時の事。



あの日も同じ組の迷子二人を何時も通り学園中探し回っていた。

無自覚な方向音痴の三之助に決断力のある方向音痴の左門。一年の時から眼を離したら居ないなんてザラで、半年を過ぎた頃になると担任や級友は探す事を放棄した。


だけど俺はそうはしなかった。俺も周りの奴らみたいに放棄したら、あの二人は迷子のまま帰って来れぇから…。


折角の友を、こんな事で失いたくないと思ったからだ。


だから俺はどんな場所にも探し回った。長年一緒にいると、二人の行動パターンが判っていき、見付けるのに時間はかからなくなった。


友達や先輩、先生方からも凄い凄いと褒められ、あの時の俺は調子に乗っていたんだと思う。嫌、確実に乗っていた。

二人を見付ける事が出来るのは“俺だけ”。
今思えば馬鹿みたい思えるその感情に、そん時の俺は酔いしれていたんだ…。




そんな俺に神様からの罰なのか、何処を探しても二人は見付からなかった。

他学年の教室は勿論、校舎中探し回って、長屋に行って、風呂場に行って。委員会室も全て回って。


目撃証言も聞きながら探したのに見付からず、出門表に名前が書かれている事に気付き、直ぐに裏山まで行った。



何時間もかけて裏山全て探していたら陽はとっくに傾き、辺は薄暗くなっていた。

こんな時間なら流石に帰って来ているかと学園に戻れば、入門表に二人の名前はない。



披露が溜まった所為もあるが、俺の頭の中は最悪な方向に思考が行く。

もしかしたら遠く離れた山に行って、山賊に襲われたんじゃねぇのか?

もしかしたら偵察に来ていた敵の忍者に見付かって…?

学園の事を探ろうと城に連れて行かれて…?



どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう…っ


良くない方へと行き過ぎて、内心パニックになっていると眼の前に突然人が落ちて来た。

それに驚いて悲鳴をあげ、俺は数歩後退した。



「あ、ごめんね、気配を消さないと後々面倒だから…。大丈夫?」



バクバクと破裂しそうなほど脈打つ心臓を抑えながら必死に呼吸を整える。
段々と落ち着いてきた頃、ようやく頭が正常に働きだした。



俺が落ち着くまで話すのを待っていてくれた相手へ何か言おうと視線を上に上げた瞬間。

一瞬息をするのを忘れたのを、覚えている。



何故なら、相手は五年生を示す群青色の装束でしかも、群青の上を流れる真っ白な髪に、紅い瞳。


先輩方から耳にタコが出来そうなほど聞かされた“学園の要注意人物”が、眼の前に立っていたからだ。


先輩方…特に同じ委員会の先輩である食満先輩からはことある毎に言い聞かされた。

決して近付くな、口をきくな、眼を合わせるな、触れるな。


脳裏を過る食満先輩の忠告…。
眼の前のヒトから距離をとろうと身体に力を入れるが、恐怖と疲労で全く動かない―。


そんな俺を観察する様に見詰めていた眼の前のヒトは、顎に手を添えて困った様に笑った。



『んー…暫く君を屋根の上から見させてもらっていたのだけど、同じ組の迷子二人が見付からないんだろ?俺も一緒に探してあげたかったんだが…生憎それが出来なくてね…。それで黙って見ていんだけど…


君と友達二人が心配でね…、居てもたってもいられなかった。君が嫌でなければ、俺も一緒に探すのだけど…』



先輩方が「声を聴くのも不快だ」と言っていたそのヒトの聲はとても優しく、先輩方が「恐ろしい」「不気味」と口を揃えて言うその紅い瞳は、驚く程優しく俺を見詰めていた。


聞いていた話しとは違うこのヒトの雰囲気に、言動に。俺は動揺を隠しきれなかった。

だって…まさかこのヒトが何の関わりもない…自分を「バケモノ」と呼び蔑んでいる俺達を心配するなんて思わない訳で…。


俺の反応を眼にして、その紅い瞳は悲し気に細められた。



『…すまない、君には迷惑だったね。俺と会話した事が上級生に知られれば怒られるのは君だし…。俺に心配されるなんて、屈辱かな…?』



そう口にした眼の前のヒトに、俺は眼を奪われた…。


薄暗い中でも一際目立つ真っ白な髪が風に靡き、自嘲する様に微笑む口とは正反対に、口にした言葉は驚く程優しかった。


気配が全くしないせいか、上級生に対してこんな事を思うのは失礼かもしれねぇが…、とても儚く想えてしょうがなかった。



俺は拳を硬く握り、口を開いた。



「あ、の…っ!心綺先輩は気配を探る事が得意とお聞きしました。だから、その…、あの二人を探すの、手伝って貰えないでしょうか…ッ!」



俺の言葉に、眼の前のヒト…否、心綺先輩は眼を見開いた。そしてふわり…と、優しく微笑んだんだ。


『…有り難う』そう口にした先輩に、俺は首を傾げた。
何故この方が礼を云うのだろうか…。

そう考えていた俺だったが、『けど、』と続けられた言葉に思考を止めた。



『あの子達二人の居場所は判ったから、今から向かう。君も一緒に連れて行くから、俺は君に触れる事になる。…嫌じゃないかい?』



先輩の言葉に、俺は力強く言葉を発した。



「あの馬鹿二人の所に連れて行って下さるのに、どうして嫌がるんですか。是非連れて行ってくだせぇ!」


『……、そう…じゃぁ、しっかり掴まっていてね』








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