白夜叉の傍観

□わたしの世界
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【13.わたしの世界】
天女 side





突然だけど、神様って不公平だって思うの。

だってそうでしょ?

あの子はお金持ちの家に生まれて何一つ不自由なく育って。おまけに美人で頭もよくて。周りからチヤホヤされて。


それに比べて私は普通の家に生まれて、沢山いる兄弟に挟まれているから“アンタは我慢しなさい”って言われながら育って。顔だって不細工。父親に似た所為よ。頭の出来もイマイチ。コレは母親に似た所為よ。…ホンット最悪。



学校だって楽しくない。仲良い友達なんていないし。休み時間なんてお喋りする相手いないから暇だし。

こんな不公平な世界無くなればいいのに、って毎日思ってたの。だけど、あの日。私は運命の出会いをしたの!


たまたまテレビをつけたら忍たま乱太郎がやってたの。そしたらハマっちゃったのよ!
最初は幼児向けなんて眼中になかったけど、意外とキャラがカッコよかったの。特に上級生よね!

それから携帯で夢小説を読みあさって尚更のめり込んでいったの。こんなカッコいいキャラに愛されたい!って何時も思っていたわ。



それから毎日寝る前にお月様にお願いしたの。神様は不公平だし…なにより、夢見る乙女はお月様にお願いするモノでしょ?



「ああ、お月様…不幸せで可哀想な私のお願いを叶えて下さい。忍たま乱太郎の世界に私を連れて行って下さい。誰からも愛された事のない私に、どうか…。彼らから愛されるようにして下さい。お願いします…」



お月様に向かって手を組んで、心を込めてそう云うの。さぁ、今から寝るわよ。眼が覚めたら大好きなキャラが眼の前に居ますよーに。



けど、何時も同じ朝を迎えるの。見慣れた天井に見慣れた私の部屋。鏡に映る私は不細工。はぁ…、まだ願いが届かないのね。


行きたくもない学校への道を歩く私。ああ可哀想!!
私の願いが叶うのなら、死んだっていいのに…。


そう考えていたのがいけなかったのかしら…。信号待ちをしていた私にトラックが突っ込んで来たの。避ける事は勿論、叫ぶ事も出来ないまま。


只身体中に激痛が走っただけ―。







それで気付いたら真っ白な空間にいたの。怪我はないし、服にも血が付いていなかったから、夢かと思ったわ。だけど私判ったの。

此処は夢小説でよくある“神様の空間”なんだって!!



そしたら、何時から居たのか。眼の前に白髪の男の人が立ってたの。人の良さそうな笑みで「君は死んだんだ」って直球に云われたわ。


だから私ブチ切れてやったの。



「冗談じゃないわよ!何で私が死ななきゃいけないのよ!恋だってした事ないし、今までだって我慢我慢で…、何一つ幸せなんてないじゃないの!!死んだ理由だって運転手の不注意じゃない!!16年しか生きてないのに…こんなの不公平よっ!!」



わぁぁぁ、と泣き出した私に。眼の前の男の人は溜息を吐き出した後に、またあの笑みをしたの。



《そんなに泣くことはないだろ、確かに君は不幸せだ。両親にも相手にされず、友人は存在しない。兄弟にも見下されて…挙句の果てには運転手の不注意で死亡。絵に描いた様な人生だ》


「なによ、馬鹿にしてるの!?」


《馬鹿になんてしてないよ。けど、あのまま生きていても、希望なんてないじゃないか。それならいっそ、死んだ方が幸せだ》



見下した様な物言いだけど、男の人が言ったことは的を射ていたから…。悔しいけど、何も言い返せなかったの。


そんな私に、またも溜息を吐いたの。何よ…っ、馬鹿にして…っ!



《何も望みがない君を見ていたら可哀想になってね…願いを叶えてあげる事にしたんだ》


「え、願いを…?」


《うん。君が毎晩月に向かって願っていた事を、“神”である僕が叶えてあげる》



その言葉を聞いた瞬間、さっきまでの怒りはどこかへ飛んでいったわ。
だって夢にまでみたトリップよ!?これでやっと彼らに会えるんですもの!!



「忍たま乱太郎の世界に行きたいわ!このままの姿じゃダメ。髪は…そうね、軽くウェーブがかかった薄い茶髪で、腰までの長さ!眼は大きくてパッチりして睫毛も長めで、瞳の色は茶色。顔は可愛い系の顔立ちで、声だって可愛くしてちょうだい!体型だって顔に似合ったものよ、小柄で色白で痩せてて…。あ、あとは彼らに愛されるようにして!!」



ああ、ああ!やっと彼らに会えるのね!!上級生からチヤホヤされて、毎日愛されて…。大好きな五年生もいいけど、一番は勘ちゃんよね!早く会いたい!



これから起こる事への期待に胸躍る私に、男の人…ううん、神様は準備が終わったのか。説明を始めたの。



《足元から床が抜けて真っ逆さまに落ちるけど、暴れちゃダメだよ。落ちる方向が変わるから。


――嗚呼、それと……“白夜叉”には気を付けてネ》


「…“白夜叉”?」


《あの世界は彼のオキニイリだから…彼を怒らせると、君はあの世界に居られなくなる。だから…じゅーぶんに、気を付けてネ?》



紫色の瞳を細めて、まるで内緒話をするかの様に口元に人差し指を当てる神様に、私は適当に頷く。


白夜叉って違うアニメの事じゃない。本当にそんなのいるのかしら…。でも大丈夫よね!だって上級生達が私を護ってくれるもの!!

怖いものなんてないわっ!!



そんな事を思っていたら足元の床が消えたの。そして説明通り真っ逆さまに落ちていったの。



落ちていく瞬間は怖かったけど、その後は最高だったわ!

私を受け止めてくれたのは小平太。やっぱり体育委員長なだけあって、この展開は定番よね!


警戒心剥き出しで私に近寄ってきた六年の彼らも、私が“天女様”って言ったら頬を染めてあっさり信じたの。


それから私をお姫様抱っこするのは誰かで言い争いを始めて…。ああ、私愛されてるって感じ!!


次の日になったら五年生の皆が私に愛の告白をしてくるし、それに便乗する様に六年の彼らも愛してるって言ってくるし。もう、さいっこう!!


また次の日になったら四年の子達も私のところに来て愛しるって言ってくれるし!



ああ、もう幸せ!これが私の想像していた世界よ!
白夜叉?そんなの知らない!だってここはもう、










わたしの世界


だもの!!




(我が物顔で居座る、)

(愚かな天女)












《――…箱庭を夢見る乙女、か。くくっ…あは、…あははははっ!ははっ…はっはっはっ…くくッ…!…


はぁー…可笑しい。何が“夢見る乙女”だよ、阿呆らしい。只現実が受け入れられなかった憐れな女だろ。トリップ?んなモン月に願っただけで出来る訳ねぇだろ。夢見すぎだっての。ま、“**の神”である僕は出来ちゃうケド…無償じゃないからネ。


精々楽しみなよ、短い幸せを。それで好きなだけ箱庭を荒らせばいい…。
小さな命と箱庭を護る為に、天女を天へと還した白夜叉。天女を失った彼等は、どうするだろうね…?
大切な者を護る為、彼等を救う為。嫌われ蔑まれ傷付けられ…。嫌われるのは慣れてる?ならば全てから嫌われてしまえばいい。今まで大切に護っていた箱庭から見放されて…。
愚かな人の子などすてて、僕の元においで…。僕は君を嫌いになどならない。



だから、ね?
……凛桜…》












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