押して引いて

□助けを呼ぶことなどしない
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「はあっ…はあっ…!」


森の中を走る。息を切らして。体のいたる所に小枝が引っかかり傷を作る。
制服は汚れ、所々破けている。ああ、早く家に帰って縫わないと。

ちらりと背後を見る。
頭の大きな、そして胴は極端に短く手足は異様に長い。人間ではないソレが追いかけてくる。俗に言う、妖。
ソレは、今日の昼に現れた黒鎖胡(クロサゴ)。転入する四日前ほどから私に憑いてしまった妖。


「喰ウゾ、オ前ヲ喰ウゾ」

「食べれるもん、ならっ!食べてみな!」


体力はもう限界に近い。夏目くんと別れてからすぐに追いかけられた。かれこれ…もう一時間はこうして逃げている。無駄にしつこいのだ、こいつ。


「はあっ…!っもう、やばいかも…」


段々とスピードが落ちていくのがわかる。もう駄目だと思ったその時に、黒鎖胡の「ウッ?!」と言う声が聞こえた。
注意しながら振り向くとそこには目を回して倒れている黒鎖胡が居た。高い位置にある奴の額は赤く腫れていた。少し視線を上にずらすと太く伸びた木の枝があった。

きっと黒鎖胡はあれに額をぶつけたのであろう。間抜けだ。
荒くなった呼吸を整えてから、制服についた埃を払い森を出た。

森を出てから少しして、左手の甲にひりひりと痛みを感じた。見てみるとそこには小さな擦り傷が出来ていた。
血はもう止まっていた。


「…はぁ」


暗くなった夜道を一人歩く少女の溜め息を聞いた人間は誰も居なかった。



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