風の道

□疑惑と謎
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「1番隊隊長様つかまえて、不能はねぇんじゃねぇ?」

まだ、サッチにナースとの話のことは話していなかったが、サッチがセイラと同じような感想を述べたので、少しセイラは安心した。


「不能って、役立たずってことでしょ?なんで、ナースの姉さんたち、そんなこと言ったのかな。」
「お前、ナース達に何言ったんだよ…。」

サッチはご飯を食べる手を止めて、頬杖をついて、セイラとナースのやり取りの内容を聞いてやることにした。




同じ時刻。ようやく、書類が一段落ついたマルコは、食堂に向かっていた。
マルコが夕飯に遅れていくのは、いつものことだったし、今日も騒がしいだろう食堂に入るのも何の抵抗もなく、きぃ、と食堂の入り口をあけて、今日は何食べるかねい、と考えながら中に足を一歩踏み入れた。

「だから、マルコは不能でサッチは‘ゼツリン’だって言ったの!」

………………。

しん、と静まりかえる食堂。いや、正確には、セイラの声が食堂に響いた瞬間に、酒を飲んでいた奴らも食事をしていた奴らもそれをすべて吹きだしたあとに訪れた沈黙だった。

セイラの前に座るサッチはまさしく顔面蒼白、と言った表情で、口をひくひくと、痙攣させる。
周りが静まったことが不思議でセイラは周りをきょろきょろして、丁度出入り口にいたマルコを見つけて、声をかけてきたから、全員、声にならない叫びをあげた。

マルコはいたって冷静な表情で、セイラ達のテーブルまで一直線でやってきたが、サッチの顔色がさらに悪くなっていた。

「ねぇ、マルコ!不能と‘ゼツリン’ってどういうこと?」

ひぃ〜、セイラ、やめろ〜!!!

声にならない叫びがサッチの表情に浮かんだが、それに気付くのは周りの人間ばかりで、肝心のセイラは全く気付いていない。

「…セイラ、その言葉、誰から聞いたんだよい?」
「ナースの姉さんたちから。」

静かに尋ねられた質問に、セイラは特に気にする様子もなく答えるから、本当に意味を知らずにいたのだと思うと、マルコも怒るに怒れず、むしろ脱力してしまう。

「ったく、余計な言葉教えやがって…。」
「え?え?どういうこと?」

「ふっ、はっはっはっ!お嬢、それくらいにしてやれ!サッチが死にそうだ!」
「え、イゾウ・・・?え?」

イゾウがふぅ、と紫煙をふかせて、煙管をサッチに向けると、サッチは屍のように真っ白になって、ぶつぶつ、と何かつぶやいている。

「お嬢。そろそろそっちの言葉も覚えねぇと、男を無闇に傷つけちまうぞ。」
「え?私、何したの?私のせい?」
「簡単に言えば、絶倫ってのは、エッチ好きだってことだ。変態だな。不能はその逆だ。エッチしてもアソコが勃たねぇってことだ。」
「………っ!?」

最初は言葉を理解しようとしていたセイラだったが、意味がわかった瞬間に、ぼん、と顔が赤くなり、わなわな、と震えた。

「ご、ごめんなさい――!!」

セイラは自分の口にしたことの恥ずかしさでいてもたってもいられなくなって、食堂を飛び出して行ってしまった。

「ストレートに言いすぎだよい…。」
「お嬢もそういう年頃だろ。そういうこと知っていかねぇと、大人の女には程遠いな。」
「……。」

マルコははぁ、とため息をもらして、セイラの座っていた席に腰を下ろした。
目の前で灰になっていくサッチは無視だ。


「マルコ隊長、不能なんすか!?」
「うるせえよい!!んな訳あるか!」

ぶしつけにも聞いてくる部下を一喝すると、部下たちもそりゃそうだ、あーびっくりした、とさほど気にした様子もなく、食事を再開した。どうやら、ただセイラの口からあんな言葉が出てきたのに驚いた奴らが大半だったようだった。

「過保護も程々にしねぇと、かわいそうなのはセイラだぜ、マルコ?」

そう楽しげに言ったイゾウにマルコは心底うんざりした表情を浮かべて、どうしたものか、と食事をする気にもならなかったが、とりあえず、ナースに文句を言いに行くことだけは決意した。
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