未知な世界へ

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島に到着し、カンナは知り合いに会ってくると言って帰ってこなかった。
サッチは気が気でなくて、探しにいこうかと思ったが、マルコ達に止められた。

「俺たちよりあいつの方がこの島の事はよく知っているし、この島の奴らだってカンナをよく知ってる。余計な心配は嫌われるよい、サッチ。」

サッチの心配を余所にマルコは平然と買い出しリストに目を走らせて、そわそわしているのを白ひげにまで笑われてしまって、サッチは船番だったのもあって街に出かける訳にもいかず、欄干から街の方を眺めた。
大きな島で、賑わう街の中からカンナを見つけることなんて出来ないが、それでも探さずにはいられなかった。

「おい、あんた。」
「ん?」

声をかけられて下を見ると、白髪交じりの体格のいい男が愛想の良い笑みをサッチに向けていた。
あの愛想の良さは商人の見せるそれと一緒だ。

「白ひげさんはいるかい?カンナの事で話があって来たんだ。」

サッチは眉を顰めながらも笑みを崩さない男を白ひげの下に案内した。

「噂はかねがね…、なるほど、カンナが興味を示すわけだ。」

白ひげの前に立った男は率直な気持ちを隠すこともなく堂々と告げた。
そんな男に白ひげは嫌悪感を示すこともなく男が話し始めるのを待った。

「私はカンナを小さい時から知っている。我が娘のように思ってきた。だからこその頼みだ。…あの子を連れて行ってくれ。」

男は白ひげを見上げた。

「それは、本人の意思か?」
「口には出さないがな。」

男は肩をすくめてみせた。

「これ以上、あの子を此処に縛り付けておくのは酷だ。あの子は好奇心旺盛だ。外の世界にも興味がある。だが、あの子はこのままでは決して島を離れない。」
「島を離れない、ってどういうことだ?現にここまで来たぞ?」

サッチの疑問に男は目を細めた。

「ここには来るさ。母親の出身はこの島だからな。」
「それとどういう関係が?」
「…あの子の母親は俺の妹だ。俺の妹とその旦那、つまりカンナの両親は行方不明だ。」

その手の話は聞いていなかったサッチは驚いたが、白ひげは表情を変えなかった。

「元々、あの二人は冒険家で、カンナが生まれてから妹は航海に出なかったが、カンナが10歳の時、旦那と一緒に半年の航海に出た。だが、半年たっても帰ってこなかった。定期的に送ってきた便りも来なくなった。」
「おい、それって…。」
「だが、カンナはどこかでまだ両親が生きてると信じている。いや、そう思いたいんだ。だから、自分は島で待っていることを伝え続けてる。」

サッチの言葉をさえぎって男は続けた。

「作家はそのためか?」

白ひげの質問に男は頷いた。

サッチは合点がいった。

カンナの書いた本、『海の戦士たちへ』。
あの本は海へと旅立った者たちと残された者たちの話だった。ヒット作とは違う作風に同じ人物が書いた本なのかと疑うほどだったが、あれはカンナの親への想いが込められた本だったのだ。だからこそ、話がリアルでサッチたちの心にすんなりと受け止められたのだ。

「だが、本人の許可もなく、しかも海賊船に乗せるのは気が進まねぇ話だな。」
「私はあなたの船だからお願いしてるんだ。」
「どういうことだ?」

男は顔を斜めに傾けて鼻から息を吐いた。

「あの子は白ひげ、あなたに興味があるらしい。」

その一言にさすがの白ひげも一瞬目を見開いて、次の瞬間高らかに笑った。

「サッチ!!悪りぃことしたな!」
「オ、オヤジ!」

白ひげのからかうような口調にサッチは珍しく本気で恥ずかしくなってしまい、声を上げた。

「言いたいことはわかった。まぁ、あいつの性格からして素直に航海に出やしないだろうな。強引にしちまうが、いいか?」
「…ありがとう。」

男はほっとした表情を浮かべて白ひげに頭を下げた。
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