企画

□拍手I(エース)〜14.2.17
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「え!?今日、エースの誕生日なの!?」

大晦日から正月にかけて、船上は朝も夜も関係なくどんちゃん騒ぎで、すでに酔いも回った頃合いにエースの昔からの仲間から得た情報に一気に酔いも冷めてしまった。

「だいたい…エースいないじゃない!」

エースは数日前から遠征に行ってしまっていて、年が明けた今も帰ってきていない。

「なんで、このタイミングで行かせたのよ!」
「仕方ねぇだろい。今回は2番隊の担当だったんだよい。」
「気がきかないわね、マルコ!」

屍だらけの船上でも酔っぱらっていないマルコに八つ当たりしてもエースが帰ってくるわけでもないが、声を荒げずにはいられない。

「マルコのばかぁ…。」
「隊長つけろ。」

恋人になってしばらく経つが、お互いの誕生日の話なんてしたことがなくて、これじゃ恋人なんて言えるのか、なんて思いながら、呆れるマルコの横で再びちびちびと酒を飲み始めた。

年明けと共にオヤジに酒を飲ませ、飲まされ、オヤジが部屋に戻っても騒がしかった夜も次第に静かになってきて、今は凪いでいる波の音を楽しんでゆっくりと新たな時の流れを楽しむ者だけが残っていた。

「エースはいつ帰ってくるの…?」

マルコの少し丸まった背中に身体を預けて真っ暗な空を見上げる。

「早ければ今日帰ってくるし、天候次第ではもっと遅れるよい。」

背後のマルコは酒を飲んでる感じではないし、ここに座っている理由は私が寄りかかっているからだ。そんなマルコの優しさに寄りかかっている。

「エースのどこが好きなんだい?」

不意に投げかけられた質問に少しだけ顔をマルコの方に向けて、また空を見上げた。

「お前の方が年上だし、年下には興味がねぇって言ってなかったか?」
「う〜ん、自分でもそう思ってたんだけどねぇ。」

実際エースより年上だし、理想の恋人も自分より年上で落ち着いた人だったはずだ。

「一目ぼれってあるんだなぁ、って。」
「エースに一目ぼれしたのかい?」

エースがオヤジの命を狙って、オヤジに敗れて船に乗せられたとき、心を奪われた。
相手はぼろぼろに傷ついて、度々オヤジの命を狙っては海に投げ飛ばされるむき出しのナイフのようなガキのはずなのに、何かを必死に求めている迷い犬のようなエースに惹かれていた。

「強い瞳をしているのに、その中にいつも迷いがあって、エースを知りたいって思って。今思えば母性がくすぐられたのかな。」

知れば知るほど惹かれた。

愛に飢えていること。
仲間を大事に想っていること。
強くて優しい心を持っていること。
笑顔が素敵なこと。
純粋なこと。

「純粋、なのか?」
「純粋だから、周りの皆も自然と笑顔になるんじゃないかな。エースといると幸せな気持ちになれる。」



「それに時折かわいいわよね。私が好き、っていうと顔赤くして、小さな声で俺も、って。そういうところ初心よね。」


ふふ、と笑った声が大気を少しだけ震わせた。はぁ、と漏れたため息は目の前を一瞬白くした。

「おかしいな。エースの笑顔が見れないだけで、こんなに寂しくなるなんて。酔いすぎて感傷に浸っちゃったかも。」

胸がずきり、と痛むのは酒を飲みすぎて酔っているからではないのはわかっているけど、いつの間にかエースの存在が自分の中でこんなにも大きくなってしまっていることに気付いてしまった。


「エースが今帰ってきたらどうする?」
「えー…まずはおかえり、って言うかな。それと、誕生日おめでとう、大好きって言って抱きしめる。」
「そうかい。…じゃあそうしてやってくれよい。」

マルコが腰をあげて、背中に当たる冷気に鳥肌が立ってマルコの方を振り向いて言葉を失った。

「エース…。」

そこには今会いたいと願っていたエースが不機嫌そうな表情でテンガロンハットを深くかぶって立っていた。

あわてて立ち上がってエースに近寄る。

「エース、帰ったの…?」
「あぁ…。」

エースが言葉少なめに答えた。

「どうしたの、どこか怪我でも…。」

テンガロンハットのせいでよくエースの顔が見えなくて、エースの顔を覗こうとするも、エースがそれを拒むようにふい、と顔を横に向けるから首をかしげる。

「急いで帰って来たのに、マルコと一緒にいるから…。」

エースがぼそぼそと漏らした言葉に唖然として、次の瞬間、笑ってしまった。

「わ、笑うな!」
「う、うん、ごめんね…。エース、おかえり。」

エースも知っている。マルコと私は兄妹のように仲が良いことを。だけど、嫉妬してくれていることがうれしい。

「誕生日おめでとう。…愛してる。」
「っ…。」

エースの冷えた頬に手を当て、キスをするとエースの顔が赤くなる。

「大好き、じゃねぇのかよっ…。」
「あはは、ちゃっかり聞いてるじゃない。」

きっと、マルコとの会話は全部聞かれていたのだろう。マルコもそれを知っていて、わざと離していた。照れ隠しで抱きしめてくるエースの背中にしっかり手をまわして抱きしめ返すと、エースの唇が耳元にあたって、小さな音が響いて目を丸くした。

「…ありがと。」

エースの言葉に返事を返すと、赤くなった顔を見せまいとエースがさらに私を強く抱きしめた。





『…俺はもっと愛しているからなっ。』

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