企画
□拍手J(サッチ)〜14.8.11
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昨日の夜から雪が降っていて、朝、デッキに出ると、まだ人がほとんど出てきていないデッキは真っ白になっていた。
「わぁ………。」
「今日は雪かきだな。」
ビスタがいつも手にしている剣の代わりにスコップを持っていて、その姿に笑いながら、私もスコップを手にとって、雪をどかしていく。
最初は楽しかった作業も寒さと雪の重さで段々腕が重くなっていく。
「捨てないの?」
大半の雪は海に捨てていたのに、ビスタの身長くらいに集められた大量の雪は残されて端に積み上げられていた。よく見れば、そんな山が3,4か所ある。
「これは使うからな。」
「……雪合戦に?」
ビスタが髭にのった雪を払いながら、私の質問ににやりと笑うだけだから、本当に雪合戦するつもりなのだ、と笑うと白い息が口から吐き出た。
「中に入ってあったかいものでも飲むか。」
もう手がかじかんで、手袋をしていてもその下の手は真っ赤になっていて、食堂の暖かさが手をじんじんさせた。
「あれ、サッチは?」
「さっき出て行ったよい。」
食堂には寒さを凌ごうとやってきた者達でごった返していたが、その中にサッチの姿はなかった。
マルコは来るのを待っていたかのように、ポットからコーヒーを淹れて、私達によこしてくれた。
「うわ、マルコがこんなことするなんて、明日雪で船が沈むかも。」
「サッチが置いてったんだよい。」
マルコは畳んだ新聞で私の頭を叩いた。
「ビスタが雪合戦やる気満々なのよ!」
「雪合戦?」
マルコが眉をひそめてビスタに視線をやると、ビスタは何も言わずにコーヒーを口に運んだ。
マルコはそれを見て、ふと笑って、新聞を開いた。
「そりゃまた楽しそうだねい。」
「え、何。マルコやるつもり?いい年して?」
マルコがくくっ、と笑って誤魔化す。
それからしばらく他愛ない話をして、わざわざイゾウが仕事道具も食堂に持って来てくれて、珍しく食堂で長い時間を過ごす。
「野郎ども、準備できたぜ!!」
何時間食堂に篭もっていたか忘れた頃に、バン、とデッキに続くドアが開いた。外から冷気と雪の欠片が食堂に入ってきて、サッチが鼻を赤くしながら、つかつかと私のところにやってきた。
「サッチ、こんな寒いのに何してたの?」
私はサッチのかぶっているフードに積もった雪を払った。サッチがその手をつかむが、サッチの手袋があまりに寒くて身体全身が鳥肌がたつ。
「来いよ!」
サッチがわれんばかりの笑顔を浮かべて、私の手を引っ張る。
まさか、雪合戦・・・?と思う私はサッチに連れられてひんやりどころか凍るように寒い外へと飛び出した。
「ハッピーバースデイ!!」
びっくりする私の前に、白い息を吐きながら、割れんばかりの笑顔を浮かべた仲間達。
「え、な、なに?」
「誕生日だろ。」
「そ、うだけど。」
私の視線は目の前の雪で出来たアーチに釘付けだった。白一色なのに、細かく装飾もされている。その先にはガゼボのようなもの。これも雪で作られていて、短い階段がつけられ、白い柱が真っ白な屋根を支えていた。
誕生日を祝ってもらえるのは嬉しいが、造形が壮大すぎて息を飲む。
「ちょっとやりすぎじゃない……?」
「いいんだよ。」
サッチが私の肩に回していた手を解いて、片膝をついた。
「結婚してくれ。」
「…………え?」
「形式とかどうでもいいんだけどよ、やっぱり、お前のこと独占できる権利欲しいんだよね。……してくれねぇか、結婚。」
サッチの突然のプロポーズに頭が真っ白になる。この壮大な雪の結晶はサッチ一人で作ったものではない。ということは、周りの皆もこの事を承知していて、私の返事を待ってる。
顔に熱が集まるのが分かり、見られないようにサッチの首に腕を回す。
「かっこつけすぎなのよ、バカ……。」
わざわざ雪を残しておいて、私を食堂に縛り付けておいて、せっせと雪で船上にチャペルを作ったサッチに思わず涙がこぼれる。
サッチが私の両腕に手をかけてサッチの首から手をほどく。腰をあげて、私に与えた軽いキスは冷たかった。
「してくれるか…?」
私は頷くことしかできなくて何度も頭を縦に振った。
サッチの手が私の腰と頭に当てられてふんわりと抱きしめられる。
「愛してる、これからもずっと。」
「私もよ、サッチ。……愛してる。」