風の道2

□彼女の思惑
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島での生活もそこそこにモビーディック号は再び大海原を進み始めた。


「あんまり上陸したって感じじゃなかったなぁ。」
「仕方ないだろ。治安のいい島じゃないからな。」

出航後の定例の隊長会議で退屈そうにエースが言うと、隣に座っているサッチも顔を縦にふり同調するも仕方がないとエースを宥める。

「とはいえ、肝心な情報は手に入らなかったんだよ?」

ハルタが二人にクギを刺すように言うと周りも押し黙る。
今回の上陸は食料補給と情報収集がメインだった分、欲しかった情報が手に入らなかったのは大きな痛手だった。
情報が入らなかったことで次の島に入るタイミングから船の進路やらが手探りになり、慎重に決めざるを得ない状況になっていた。

その時、今まで黙って話を聞いていたセイラが白い紙切れを1枚テーブルの上にすっと差し出した。
みんなの視線が集まる中、セイラは白ひげに視線をやった。

「ここに今皆が求めてる情報がある。」


その発言に皆の視線が机の上の紙切れに向かう。しかし、セイラは2つ折りにされたその紙を開こうとはしなかった。

「オヤジ、私と取引をしよう。」

すっと白ひげの目が細まってセイラを見やる。

「この情報をあげる。だからこれからは私も情報収集に参加させて欲しい。」

その発言に1番最初に反応したのはマルコだった。

「その情報が俺たちが欲しかったものとは限らねえだろい?」
「……世界貴族の使う航路とその日程。」

ぽつりとつぶやくように発せられたその言葉に皆の表情が硬くなる。セイラが持っている情報は確かに今回欲していた情報だった。

次の島はオークションが行われるような大きな島で、世界貴族は度々奴隷を求めてやってくる。しかも、今回白ひげ海賊団が島に到着する頃に世界貴族も島に来るとの情報が入った。
世界貴族の共には大抵世界政府と海軍の上層部が関わってくるから白ひげと世界貴族が同じ島にいるとなると厄介事になりかねない。
だからこそ、それを回避しようというのが白ひげの決断だったが、相手が相手なだけに航路などの情報は厳重に管理されており、情報が得にくい状況だった。

セイラがその情報を手に入れたとなる今後の航海の行く末を決めている事は一目瞭然。だからこそその情報が欲しくはあったがすぐに結論を出すことはできない。

長年セイラに情報収集をやらせてこなかったのは、マルコはもちろんのこと白ひげの意思だった。
情報を得るには傘下の海賊から得ることもあれば、情報屋を利用して情報を得ることもある。大抵そういう輩のいる場所は危険なところが多い。
女の場合情報を得るために男の情報屋と寝ることもある。むしろその方が男もあっさりと情報を寄越してくれる事実も否めなかった。
そういう状況があるからこそ、白ひげはセイラに情報収集をさせてはこなかった。


「その情報はどうやって手に入れたんだ?」

白ひげは自分を見てくるセイラと視線を交えた。

「修行の間、いろんな人と会って来た。その中で関係を築いた。今回はそのツテで情報をもらった。」
「……世界貴族の航路と日程の情報が欲しいことはセイラに伝えてたのかぁ?」

白ひげの視線が自分の傍に座るマルコに移ると、マルコは険しい表情で首を横に振った。
マルコは危険な情報ほどセイラに教えなかった。今回も情報の機密性を考えると決して安全に手に入れらる情報ではなかったと分かっていたから、マルコはセイラに何も言っていなかった。
だからこそ、セイラがどうして今回収集していた情報の内容を知っていたのか驚くしかなかった。


他の隊長格も同じ思いで、セイラはその視線の意味に気付いてか、一度目を閉じて息を吐くと、すっと目を開けた。

その瞳は今まで白ひげ海賊団が知るものではなかった。

鋭く、隙のない瞳だった。


「私はこの2年半の修行の中で、自分の立場を知った。その内、私は世界にこの命を狙われる。だから、私は誰よりも情報に敏感でなければならない。正確に情報を得て、正確に判断していかないといけない。」


セイラは修行の中で裏の世界を知った。
この世界で生き残るために。母、時知らずの魔女がそうしたようにセイラもまた世界中の情報に耳を傾けるようになった。


「セイラ。」

誰もセイラに何も言えない中、セイラの名を呼んだ白ひげの声には覇気がなく、寂しささえにじみ出ていた。

「お前が戦闘員になりたいって言った日のことを覚えてるか?」

唐突な質問にセイラに頷いた。

「俺は女の戦闘員は認めてない。お前だけだ。何故だかわかるか?」

ふるふる、とセイラは横に首を振った。

「お前の本能は戦うことだからだ。お前の居場所が戦場だからだ。そこに男も女も関係ねぇ。……いつだったか、リアンが戦った姿を見たとき、あいつは楽しそうだった。リアンとお前は戦うことが人生そのものだ。それを奪ってお前に何が残る?親としては悲しいが、お前はそういう風にしていかないと生きていけない立場にある。だから、俺は認めた。」
「オ、ヤジ…。」


白ひげの真意を初めて聞いたセイラは胸を詰まらせた。

白ひげは幼かった自分からそこまで察してくれていたのかと思うと、戦いの場に導いてくれたこと、白ひげ海賊団の一員として戦わせてくれたことに感謝の気持ちでいっぱいになった。

「……今回お前はマルコの指示に反して勝手に情報収集をした。」
「それは、ごめんなさい。」

「情報収集は認めてやる。」

その言葉に驚いたのはセイラよりマルコのように思えた。

「だが、自分を犠牲にして得るような情報はいらねぇ。それだけは約束しろ。」

最後の一言を添えて、セイラは力強くその約束を守り抜くことを深く頷いて示した。
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